第14話

 そんな…。


 私がしたことは卑劣な行為でしかない。今の私が何を言っても、それは言い訳にもならない戯言。こんな人間、誰とも一緒にいる権利なんてないと思った。


 やばい。また泣きそう。


「今日こそ大人しくしてるんだそ。」


 そんな優しい言葉掛けないで。


「逃げ出したりすんなよな。」

「…ん?逃げ出す?」

「入院だ。」

「入院?そんな…勝手に決めないでよ!」

「バカ。俺は医者だぞ?お前の担当医だ。」


 そうだった。この男は医師。ほんとバカだ、私。


「これ以上、心配かけんな。」


 ふてくされた私に掛けた言葉。切ない顔だからかな。すごく、深く深く聞こえた。


「あ…そうだ…。」


 私は疑問を思い出す。


「ねえ。」

「ん?」

「あ、えっと…。」


 私は慌てて白衣に付いた名札を探した。名前なんか知ってるのに。


「あ…あらい…。」

つかさでいいよ。」


 少し気まずい私。そっと目線を名札から顔に移す。移した先にあったのは微笑み。


「今更『先生』なんて呼ばれても恥ずかしいだろ。」

「ねぇ司。」

「なんだよ、いきなり呼び捨てかよ。」


 ずっと続く微笑み。それは本物、本物の優しさ。その優しさが私の疑問を消す。代わりに私は素直を覚えた。


「ありがとう、司。」


 少し驚いた顔が見えた。でもすぐに変わる。司はまた微笑んだ。


「ゆっくり休め。」

「うん。」

「また来る、真琴。」

「うん…。」


 “どうして私のこと知ってるの?”


 私の疑問、聞こうと思ったこと。でもそんなこと、今はどうでもいい。医師であろうが何であろうが、私は司に支えられている。感謝しなくちゃ。それが今、一番大切なこと。一番大切にしたいと、思ったこと。

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