第13話

 嘘でしょ?


 まさか、こんなこと。


 あの男だ。世話好きで不思議なあの男が、黒いシャツの上に白い白衣を羽織っていた。私は事実を確実に確かめる為、少しずつ体を起こす。ぼんやりの意識がはっきり、それ以上になる。


「…なんで?」

「驚いたか?」

「なんで?どうしてここにいるの??」

「俺も驚いたよ。」


 呑気な態度。腹が立つ。


「ちょっと!ちゃんと答えて!」


 私は強く、拳でベッドを叩いた。また眩暈?もう止めてよ。


「ちゃんと説明するから、少し落ち着け。」


 男は私の頭をぽんぽんとした。大きな手。眩暈の中、確かに見た男の微笑み。大きな手も微笑みも、優しい声も。昨日と同じ。全部同じ。男はゆっくり椅子に座り、ゆっくり話し出した。


「お前は、マンションの下で倒れていた。それを俺が見付けて、病院ここに連れて来た。ここまでいいか?」

「…うん…。」


 男は私の呼吸に合わせて話す。


「お前の体力は、昨日の時点でかなり消耗していた。熱が出る寸前。あのまま公園にいても倒れてただろう。」


 私は小さな溜め息をつく。


「お前、どこ行こうとしてたんだ。」

「どこって…。帰ろうとしたの、自分の部屋に…。」

「そんな体でよく動けたな。その体力を、昨日使って帰れば良かっただろ。」

「昨日は…。」

「俺は今日、もっと早く帰る予定だった。だから鍵を置いていかなかった。俺が帰るまで大人しく休んでるだろうと思ったからな。でもお前は勝手に出やがった。」

「それはほんとに…!ひどいと思って…。」

「そうじゃない。俺はお前に休んで欲しかったんだ。心身共に。鍵を置いていかなかったのはわざとだ。」

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