第5話
シャワーが私に降り注ぐ。雨とは違う。鋭くも痛くもない。冷たくなくて、暖かくて、柔らかい。私を包むようだった。
バスルームのドアを開けると、足元に新しいバスタオルと着替え。あの男の物であろうTシャツを着て、ハーフパンツを穿く。いい匂いのするバスタオルを肩に掛け、リビングに行ってみた。
ぼーっと突っ立っている私に男は微笑み掛ける。『待ってたぞ』って安心した顔。
「待ってたぞ。」
男は床をポンポンと叩いた。座れってことか。私はとことこ歩き、そこに座った。するといきなり頭に熱いもの。
「あっつ…!」
「悪い悪い、動くな。」
熱いものは、ドライヤーの熱風。髪を乾かしてくれるらしい。マメな男。誰にも、サトシにも、されたことない。
濡れた長い髪が顔を覆う。私はそのまま目を閉じた。
そこは暗闇。何も見えない、何もない。私の頭の中みたい。
踊る髪、包む指。それと暖かい風。ホッとしたのかな。ホッと声が出た。
「ねぇ、なんで戻って来たの?」
私は男に顔を向けて聞いた。
「動くなって言っただろ。」
男は私の頭をクイっと元の向きに戻す。
「なんだ?もっと声大きくしろ。聞こえねぇ。」
ドライヤーの音に負ける私の声。
「ねえ!なんで私がまだあそこにいるってわかったの?」
「なんでって、誰だって想像付くだろ。」
私は単純、だったんだ。初めて知る自分。サトシは知ってたかな。知ってたよね?
だめだ。サトシのことばかり浮かぶ。考えてしまう。
だめだ、だめだ。
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