第4話

 雨に降られて、どれくらい時間が経ったんだろう。髪も服も下着まで濡れて、身体を縛るようにべったりしている。それがうざく感じるほど、私は雨に濡れていた。


 黒いノースリーブのワンピース。腕に当たる雨粒が痛い。スカートの裾が雨を垂れ流す。ブーツの中は水たまり。それでもまだ、思考は止まったまま。いや、だからこそ、なのかな。


「何やってんだ。」


 デジャブかと思った。


 さっきと同じ声、同じブーツの男が立っていた。でも、今度は呆れた顔じゃない。心配してる顔。同情してるのかな。まさかね。


「やっぱりまだいたか。帰るぞ。」


 帰る?どこに?


 そういえば、この花柄のシャツ。どこかで見たことがあるような、ないような。


 だめだ、何も考えられない。


 男は私を立ち上がらせようと、私の腕を強く引き上げた。咄嗟のことで足に力が入らず、私は倒れそうになる。肩が男の胸に勢い良くぶつかってしまった。


「あ…。」

「お前…震えてんじゃねーか…。早く行くぞ。」


 私は自分の身体が震えていることすら知らなかったのに、男は私がまだここにいることを知っていた。


 私の雨の肩。男はしっかり握り、ゆっくり歩き出す。私は男にもたれ、ずるずる進み出す。これからどこに行くんだろう。身体も足取りも、頭も重い。いつまで歩くんだろう。


 どんな疑問符も、雨に流され消えていった。


「あと少しだ、頑張れ。」


 目線を上げるとマンションがあった。エレベーターに乗る。男の部屋に着いたらしい。


「入れ、とにかく入れ。」


 雨で重みを増したブーツで、私は玄関に入った。ブーツの紐を緩めようとした、その指。うまく動かない。私は手も震えていた。うずくまる私。上からふわっとバスタオルが降ってきた。


「俺がやってやる。」


 男は慣れた手付きで紐を緩める。私は部屋に入った。


 降ってきたバスタオルは、いい匂いがした。

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