第3話

 目の前に公園。真っ暗な公園に、私は入った。ベンチを見付け、ギターケースを立て掛ける。私はその隣に座った。今日のことを振り返ろうとした、その時。


  ポツッ ポツッ


「…雨…。」


 なんてシチュエーション。ドラマみたい。演じるつもりなんてないんだけど。雨は一気に激しくなる。落ちる雨が無数の線になって、それを外灯が照らすのを見ていた。


 ブランコが見えた。小さい頃、好きだったな。それから音楽が好きになって、ギターに夢中になって。そのうち音楽もギターも好きなサトシを好きになって、追い掛けて、一緒に歩いた。


 信じていたものは、夢幻になった。


 髪から雨が流れる。サトシの希望で、ずっと変えずにいたロングの髪。雨は髪から身体へ。私から雨が流れていた。


「何やってんだ。」


 私は見上げる。傘を差した男が立っていた。黒地にワインレッドの花柄のシャツ、タイトなジーンズ。そして、私と同じモデルのマーチンのブーツを履いていた。気付かなかったのは、激しい雨と雨音のせい。男は呆れた顔。でも、バカにしているようには見えなかった。


「…何って…。…別に…。」


 私はボソッと言った。


「こんなに濡れて…かわいそうに…。」


 男はギターケースを見ていた。私の隣のギターケース。そっか、かわいそうなのはギター。私じゃない。


「このままここにいるなら、俺がこいつ連れて帰るぞ。」


 私は返事ができなかった。答えがわからない。うつむく私に男は容赦なく言った。


「聞くまでもなかったな。お前みたいなやつに、ギターを持つ資格はない。ギタリスト失格だ。」


 資格も何も。私はもう。


「いいよ…持ってって…。…もう…いらない…。」


 さっきの答えが自然と、雨粒と共にこぼれた。男はギターケースの取っ手を握る。私をちらっと見た気がした。私はそれを無視する。ギターケースを持ち上げ、男は去って行った。雨音が激しくなる。


 私はギタリストでなくなった。何者でもなくなった。何もなくなった。


 私はひとりになった。独りになった。

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