第2話

 私はサトシが大好きだ。その言葉にショックを受けることはなかった。サトシの尊い思い。尊重するに決まってるじゃん。ちゃんと答えるよ。ちゃんと、応えるよ。


「…わかった…。」

「マコ…ごめん…。」

「謝らないでよ。サトシは何も悪くない。」

「ほんとごめん…マコ…。」


 ショックを受けなかったんじゃない、何も考えられなかった。


「それで…、オレ、引っ越したいんだ。心機一転っていうか…。」

「え…。あ…そっか…。」


 私達は一緒に住んでいた。バンド活動期間と同じ5年間、二人暮らし。もう一緒にはいられない。サトシに私の顔、見せたくない。


「新しいとこ見つけるの、急がなくていいから。それは全然、気にしなくていいから…。」


 気にしてなくないでしょ?顔に書いてある。相変わらずわかりやすいヤツ。


 大丈夫。私、さっさと消えるよ。サトシに、迷惑かけないように頑張る。サトシが大切だから。サトシが好きだから。


「うん、わかった。」


 私は笑った。サトシは少し、震えてた。


「…マコ、悪い。オレ明日、朝早いから…。先、帰るわ…。」


 気まずいから一人で帰りたいんでしょ?大丈夫だよ。


「うん、わかった。」


 サトシは私と目を合わさず、ギターケースを抱えて店を出て行った。


 私、『わかった』しか言ってない。他に何が言えたんだろう。恐怖や絶望なんてものも感じない。私の思考は止まっていた。


 いつまでもここにいられない。私も店を出よう。持ち上げたギターケースは、いつもより重く感じた。重い、重いよ、サトシ。


 店を出た、私に疑問。


 どこに行くの?サトシのいる部屋?帰れるの?サトシと一緒の空間にいられるの?


 帰り道とは逆方向へ、私は歩き始めた。

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