セッション

凪 景子

第1話

「今まで本当に…ありがとうございましたー!!!」


 ボーカルが叫ぶ。ファンは拍手をする。


 終わった。私達のライヴ。ラストライヴ。今日で解散。今日でおしまい。


 私は、相棒のギターも沢山のファンも見ず、隣のギターボーカル、サトシを見ていた。私の恋人、私を支える人。


 やり切った表情かおのサトシ。やり切れない表情かおの私。アンコールの曲が、終わらなければよかったのに。


 サトシはギターボーカル、私はギター。他、ベースとドラム。4人のロックバンドだった。活動5年。メジャーデビューを胸に生きてきた。できると信じて疑わず。でもそれは、夢を見ていただけだった。代わりに見えてしまった、現実。考えさせられた、人生。


 メンバー4人。話して、言い合って、ケンカにもなって。それでも話し合って、考えて考えて考え抜いた結果の解散。


「乾杯!」

「お疲れ!」

「お疲れっしたー!」


 私達は4人で打ち上げ。『いつも』のように。みんな『いつも』を装ってる。5年も一緒に過ごせば、そんなこと容易くわかる。私も装うしかない。


「かんぱい。」


 私は笑顔を作る。みんなにはどう見えただろう。どう感じただろう。でももう、知る術も意味もない。


 明日から、みんなと他人になる訳じゃない。会えなくなる訳でもない。でも終わる。このバンドが、この4人の関係が、終わる。


「じゃあな!お疲れ!」

「お前、仕事明日からだろ?遅刻すんなよー。」

「先輩こそ、真面目に働いてくださいよ!」

「お疲れ!またな!」


 メンバーと別れる。もうメンバーと呼べなくなった。


「マコ、話があるんだ。帰る前にもう一軒行こう。」


 突然サトシに言われた『話がある』、だなんて。そんなかしこまった言葉、使わないヤツなのに。嫌な予感しかなかった私は、黙ってサトシについて行く。予感は的中した。


「マコ、別れて欲しい。」

「え…。…どうして…。」

「ずっと、考えてたんだ…。」


 出た。考えてるなら、その間に言ってよ。


「俺は音楽から足を洗う。」

「知ってるよ…。それと私と…何か関係あるの…?」


 サトシは眉間にしわを寄せる。怖い。言いづらいこと言う時のサイン。


「お前の顔見ると、諦めたくなくなるんだよ…音楽…。」


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