第12話 やっぱ、アイツの相手もすんだ……

 昨日は一日、射撃場で無抵抗のロボットを死ぬほど撃ち殺した。

 寝覚めは良くない。

 少年特殊作戦群訓練センター「ホタテ」から徒歩で5分程の所に官舎があり、当面の棲家すみかになった。

 百発百中とまではいかないが、自分に射撃の才能があることには驚いた。だからと言って、嬉しくもなかった。


 コンコン。

 ノックの音がした。

 時計を見ると午前6時を回っていた。

 昨日、解散時に鉢野前はちのまえ七代ななよから起床は6時と聞かされていた。

 スチール制の簡素なベッドから抜け、ドア窓から覗くと制服姿の七代が立っていた。

えーな!」

 多魔世は舌打ちをした。

 ピンフォール・アキラの姿はなかった。

 射撃の練習後、「帰るわねぇ」と一言残して去って行った。

 あんな奴でもいないのか、と思うと少し不安になった。

「起きてるか?」

 七代のきもわった声が響いた。

「はい……」

 消え入りそうなか細い声を絞り出し、多魔世は渋々、ドアを開けた。

「おはよう」

 七代は既に制服姿だった。

「おはよう……ございます」

「食堂は、わかるな?」

「1階の奥ですよね?」

「そうだ。身支度を済ませたら朝食をとって、7時には海上訓練場に集合しろ」

「はい」

 集合って言うか、あたし一人だよね?


 七代が階段を降りていくのを確認してから多魔世は部屋に戻った。

 多魔世の部屋は四人部屋だったが、今は一人で使っていた。洗面台はあるが、トイレと風呂はなかった。

 多魔世は急いで身支度をし、1階の食堂へ向かった。


 食堂はざっと100名程度は一度に収容できる広さがあった。にもかかわらず、多魔世の他に誰もいなかった。

 入口を入って左手には配膳カウンターが配置され、部屋の奥まで続いていた。

 入口近くにプラスティック製トレーの山があったので一つ取り、カウンターに置いた。

 しばらく突っ立っていたが、何も起こらなかったので、カウンターの中を覗いた。

 時間が早かったのか調理員は皆、奥の方で盛り付けを行っていた。

 そうは言っても7時までに訓練場へ行かなければどやされると思い、勇気を出して声を出した。

「すみませぇーん……」

 遠慮がちに絞り出した声だったが、何人かいる内の一人の調理員に届いた。

「あ、はあーい」

「すみませーん。ご飯、食べれますか?」

 多魔世はもう一度、ペコリと頭を下げた。

「ああ、いいわよ。ちょっと待っててね」

 調理員は多魔世のトレーを持って、一旦、奥に戻って行った。

「まだ、開店前だったんですね?」

「大丈夫よ。もう、準備はできてるから」

 名札に『大盛加代』と書かれた調理員がトレーに朝食を載せて多魔世に差し出した。

「7時までに訓練場に行かないといけないんで……」

 多魔世はメニューを確認しながら会釈をした。

「ああ、七代ちゃんのとこね?」

「知ってるんですか?」

「あの娘も、ここ長いからねえ」

「ずっと、ここで教官をしているんですか?」

「ううん。七代ちゃんも実戦経験があるわよ」

「そうなんですか……」

「戦闘中に大怪我してねえ……。それで戻って来たのよ」

「え! そうだったんですか」

「本人は現場に戻りたい、と言ってるみたいなんだけどね……」

「そうなんですか……」

「ちょっと厳しいところはあるけど、悪いじゃないから大目に見てあげてね」

「わかりました……」

 多魔世は頭を下げ、トレーを抱えて、入口に近い席に腰を下ろした。

 塩鮭をかじりながら、地球外生物ってどんなだろうと、ぼんやり考えた。

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