第10話 撃てど響かず?

 実弾が入っていないとは言え、銃を担ぎながら施設内をウロウロするのは気が引けた。

 3階まではエレベーターで行くものと思っていたが、しっかり階段を歩かされた。これも訓練じっしゅうの一環なのだろうか。

 フロアマップを見ると3階には射撃場の他にトレーニング室が設置されていた。


「さあ、入って」

 七代に促され、多魔世は射撃場に足を踏み入れた。

 これも勝手な思い込みでしかないが、テレビでよく見る横一列に並んで丸いまとを撃つ練習場とは全く異質の空間だった。

「射撃場……、ですか?」

「そうよ」

屋外そとみたいですよね?」

 入口から向かって左側は海岸線が奥まで走っていた。右側は岩肌があらわになった島の陸地の様だった。

 ここがこんな感じなら2階の白兵戦訓練場はどうなっているのか、多魔世は不安になった。

「実践を意識しているからね」

「何を撃つんですか?」

「撃ち合いね」

 七代はしれっと答えた。

「撃ち合い?」

「そうね」

「何を撃って、何に撃たれるんですか?」

「敵を撃って、敵に撃たれるのよ」

 表情を変えること無く、七代は答えた。

「それはそうでしょうけど……」

 こいつ、以外とバカなのかと、多魔世は勘繰かんぐった。

「こっちは敵国の兵士を想定しているわ」

「こっち、は?」

「そう」

 七代は事務的に答えた。

「じゃあ、あっちは?」

 多魔世は1階を指差した。

「地球外生物よ」

 七代はさらりと答えた。

「地球外?」

 聞き違いである事を祈った。

「そうよ」

「どういう事?」

「地球の生物ではない、という事よ。詳しい事はまだ分かっていないの。調査中よ」

「防衛省と文部科学省は実習と称して宇宙怪獣と中学生を闘わせるんですか!」

 多魔世は頭の上で水中銃を振り上げながら怒鳴った。

「宇宙怪獣とは言ってないわ」

 七代は真顔で否定した。

 そこかよ! 多魔世はつんのめった。

「あんたは知ってたの?」

 いつまでも付いて来るアキラに多魔世は訊いた。

「文部科学省は戦闘行為の中身までは承知していません」

 アキラは無表情で言った。

「何のまねよ一体! 急に杓子定規になって!」

 多魔世は水中銃の台尻で小突いた。


「そろそろ、訓練を始めるわよ!」

 多魔世とアキラのやり取りを退屈そうに眺めていた七代が号令を掛けた。

「……はい」

 多魔世は大人しく気を付けの姿勢を取った。

「行きなり双方向の銃撃戦は無理だと思うから、今日は無抵抗ロボットを使います」

「無抵抗ロボット……」

 言葉の響きの残酷さに多魔世は吐き気を覚えた。何か、イジメじゃん……。

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