第6話 少年特殊作戦群、て何だよ!

 高機動車(コウキ)の後部ドアを開け、アキラは多魔世に顎で乗車を促した。

「何だよ、乗りずれえなあ」

 車高が高く、ステップに一旦、足を掛けなければ車内に入れなかった。


 内部は前方に運転席と助手席、後部は各側面に4人掛けのベンチシートが向い合わせに設置されており、トータル10人乗りの仕様になっていた。

 後部座席全体が幌付きのためラグジュアリー感など全く無かった。

 車内には運転手と助手席に一人と多魔世とアキラの4人しかいなかった。


「何だ、これだけかよ」

「当たり前でしょ! あんたを連れて行くだけなんだから」

「何であんたまで制服、来てるんだよ?」

 広い車内にも関わらず隣に座ってきたアキラから身を退かせながら多魔世は訊いた。

「可愛い教え子を日本初の特別実習に送り出す、ていうのに上下ジャージで行く訳にはいかないじゃないのぉ」

「そのくせ金髪だけどな」

「ああ、これは美容師が勝手にやったのよぉ。私は地毛に近い色にしてくれって言ったのにぃ」

「わざわざ染めに行ってる事には変わらないだろ!」

 高機動車は校舎を離れ、狭間市の西はずれにある高速道路のインターチェンジに向かった。


「高速、乗んのかよ」

東千歳ひがしちとせ駐屯地だからねぇ」

「自衛隊車両が高速走ってたら周りが引かないか?」

「一般道を走るよりはましよぉ」

「そっか」

 それから1時間、二人から会話が途切れた。


 高機動車は千歳インターチェンジを降り、千歳市街地に出た。ラッシュアワーにぶつかったため市道は混雑していた。縦横たてよこにデカイ高機動車は周囲の迷惑そのものだった。自衛隊の街であるためか高機動車を好奇な目で見るものはいなかった。


 JR千歳駅を抜け、さけのふるさと千歳水族館の脇を通り過ぎた所で、高機動車は右折した。そこからサーモン橋を渡り、30号線と東大通を経て10分ほど走ると陸上自衛隊東千歳駐屯地の入口に到達した。

 札幌ドーム20個分の総敷地面接があり、敷地内には路線バスが走っている。


ひれえーな!」

 多魔世はフロントガラス越しに駐屯地を眺めて感嘆した。

「陸上自衛隊では1、2を争う面積だからねぇ」

 高機動車は正門で一旦停車し、警衛隊の歩哨から身分確認を受けた。

 運転席側の隊員二人は兎も角、アキラに対して明らかに歩哨は嫌そうな顔をしていた。その様子から初見ではない事を見て取れた。


「何でそんなに嫌われてんだよ?」

 多魔世が愉快そうにわらった。

「あたしのせいじゃないわよぉ」

 アキラが不満げに答えた。

「あんたのせいだろ!」

 多魔世がアキラの背中を平手打ちした。

「痛いわねぇ。暴力反対よぉ!」

「なに言ってんだよ。これから戦争の訓練させる奴が!」

「そうだったわねぇ」

 アキラが居住まいを正した。

「どこに連れて行かれるんだ、これから」

「遠くの方に緑色のドームがあるのは分かる?」

 アキラがフロントガラスを人差し指で指した。

「あのホタテ貝の化け物みたいな建物やつか?」

「そうね」

「何の施設だ?」

「……少年……特殊作戦群よ」

 アキラの顔が少しだけ険しくなった。

「な、何だよ、少年特殊作戦群て!」

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