第3話 出撃! 境界島へ?

 職員室の奥には通称、説教部屋と呼ばれる小部屋がある。

 ピンフォール・アキラに連れられて職員室に入るなり、多魔世に哀れみの視線が向けられた。


「お入り」

 説教部屋の引き戸を開け、アキラが多魔世に促した。

 中は3畳ほどの広さだった。窓はなく、小さなテーブルに椅子が2脚配置されていた。壁には何やら標語の書かれたポスターが貼られていた。読む気にはならなかった。

「お掛け」

 入口手前の椅子に促され、多魔世は渋々、腰掛けた。


「朝のホームルームでも言った様に、明日から特別実習に参加してもらいます」

 アキラは淀みなく一息で言った。

「戦場に行け、て言ったよね」

 多魔世は低い声で返した。

「よく覚えていたわね」

 アキラは感心する様に応えた。

「そこまで馬鹿じゃねえよ」

 多魔世は不安を隠すように小指で鼻をほじって見せた。

「明日の朝、7時に生徒玄関前にいてちょうだい」

はええな!」

「自衛隊の車が迎えに来るので、それに乗って千歳ちとせに行きます」

「千歳……」

「あたしが引率します」

 当然だろ! 珠世は心の中で罵った。

「あ、手ぶらでいいからね」

「日帰り?」

「そんな訳ないでしょ!」

 知らんし! 多魔世は心の中で舌打ちした。

「千歳で手ぶらで何すんの?」

「訓練ね。手ぶらじゃないけどね」

 アキラはウィンクした。

「学生はあたしだけなの?」

「さあ? 行ってみないと分からないわ」

「訓練はいつまで続くの?」

「貴方しだいね」

「しばらく帰って来れない、てこと?」

「そうなるかもね」

「授業は出られなくなるけど、いいの?」

 多魔世は何とか行かなくてもいい方法を探りたかった。

「文部科学省も認めた特別プログラムだから安心して。卒業単位には影響のないよう配慮されるから」

「そう……」あてが外れた。でも、「訓練が終れば帰れるんでしょ?」

「馬鹿ね。訓練だけして、帰る訳ないでしょ!」

「え!」

 多魔世は半けつ、イスからずり落ちた。

「え、じゃないわよ。甘えんじゃないわよ」

「じゃ、どうすんのよ?」

境界島きょうかいじまに行くに決まってんでしょ!」

 バーン! とアキラは平手で机を叩いた。

「決まってる? 境界島?」

 多魔世の額に汗がにじんでいた。

「そうよ」

「何なのよ? その島」

 多魔世は額の右端に井の字を浮かべた。

「知らないの? あなた。境界島を」

「どこにあるのよ?」

「日本とC国との境界よ!」

「どこの島なのよ?」

日本うちの島に決まってるでしょ!」

「そんなとこ行って、何すんのよ?」

「守るのよ、島を」

「何から?」

「……C国からに決まってんでしょ!」

 一瞬、間があったが、アキラは強弁した。

「えーーーーーー! 戦争じゃん!」

 多魔世は机に突っ伏した。

「だから最初から言ってるでしょ! 戦場に行け、て」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る