記憶を取り戻した悪役令嬢。

第1話


私は何処にでもいる普通のパートだった。

持病のせいで長時間労働も出来ず学もない私はパートをしながら節約をして生きていた。

そんな私の楽しみが自分の誕生日の日に買う乙女ゲームだった。


家族も友達も恋人も居ない私にとって

乙女ゲームは、心の支えだった。

時に友達として…時に恋人として関係を築いていく。

一年かけてじっくり遊び隠しキャラを出す。

それが唯一の楽しみだった。


何故今こんな話をしたかというと…


「ティアナ様!?大丈夫ですか!?」


私は、どうやら転生したようなんです。

頭から血を流しながらオロオロするメイドや男の子を見る。


「大丈夫ですわ。

傷はそんなに深くありま…せ…んわ…」


ポタポタドレスに血が垂れていくのを見ながら私の意識は無くなった。






「ん…ひぃっ!?」


ズキズキする頭を押さえながら起き上がり

周りを見て変な声が出てしまった。


それもしょうがないと思う。

だって部屋が全面鏡なんだもの。

それに、鏡に写ってる顔は前の私とは比べ物にならないくらい可愛い。

ツンっとつった琥珀色の目の下に泣きボクロがあり

プルンっとした唇に軽くウェーブがかかった銀色の髪。


「あれ…この顔…見覚えが…」


何処でだろう。

こんなかわいい顔一度見たら忘れないだろう。

思い出そうとする頭がズキズキする。


「ふぅ…状況整理だ…」


転生する前の私の名前は、藤崎 紫苑。

此処では、ティアナ・スカーレット。5歳。

スカーレット家の長女で家族は兄と父と母の四人家族。


この名前にも…聞き覚えがあるのに…思い出せない…


バンッ


「ティア!?怪我は大丈夫か!?」


大きく音を鳴らし開いた扉からはお兄様のジョシュア・スカーレットが入ってきた。

私と同じ銀色の髪を後ろで結って

金色の瞳には心配の色が見えた。


「お、お兄様!?

学園に居るはずじゃ…?」


ぎゅぅっと抱きしめられここに居るはずのないお兄様の存在に困惑を隠せない。


「ティアが怪我したと聞いて学園になんて居られる訳無いだろ!?

大丈夫かい?痛みはないかい?」


「少し痛みますが、お兄様に会えたからこれくらい大丈夫ですわ。」


私の中で前世の記憶はあるけれど

それと同じくティアナとして過ごした記憶も存在する。

お兄様は、とても優しく私を溺愛している。

前世では縁がなかった家族…


「僕はティアの為なら何処へでも駆けつけるからな!?」


包帯が巻かれた頭を見て悲しげに眉を下げおでこにキスする。


「お兄様大好きよ!」


お兄様に抱きつく。


「僕もだよ。」


わたしを抱きしめ返すお兄様の腕の中はとても暖かくて安心した。


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