10 決行前夜と幾望の月

 夜。

 リーレは目覚める。

 ベッドから出て、ソファで寝ているセイルを起こさないように、静かに窓を開け、外へ飛び降りた。

 リーレは真夜中の街を歩いていく。

 教会の屋根に掲げられている十字架の上に立ち、そっと溜息を吐く。


(あの男は、いったい何者なの?何を考えているの?)


 深夜の街を見下ろしながら、リーレはセイルについて考える。


(どうして私を助けるの?私が魔法を暴発したとき、あの男はどうやって元に戻したの?)


 リーレの目には、セイルがとても怪しく見えた。


(なぜ一般に知られていない知識を持っているの?なぜ魔導具を扱えるの?)


 疑問ばかりがリーレの頭の中に浮かび上がってくる。答えはどれだけ考えても『分からない』としかいえない。


(あの男の目的・・は、何?)


 初め、セイルはこう言った。


『こちらにも事情がある』『ちょうど人手が欲しかったところだ』


 募る不信感。しかし現状リーレにはどうすることもできない。セイルに従うしかないのである。


「はぁ……」


 リーレはもう一度溜息を吐き、十字架から飛び降りた。











 セイルは夜風に吹かれて舞うカーテンを見つめながら溜息を吐く。


(アイツの考えることは分からんな……)


 どっちもどっちである。






 夜空に浮かぶは、幾望の月。満ちる時を、ただひたすらに待っている。

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