9 魔導具と改造


 翌朝、セイルは魔導具探しを再開した。

 因みにこれまで触れてこなかったが、セイルの探している魔導具は二つある。結界生成の魔導具と、魔力隠蔽の魔導具だ。どちらもそうたいして珍しいものではない。それなのにどうして見つからないのか、という話なのだが、それはセイルが貧乏性だからという一点だ。それらの魔導具は、リーレに使用させるつもりであり、リーレ一人分の効果範囲があればいいのだが、結界生成の魔導具は通常の用途を考えればそれなりの範囲を想定して作られる。もちろん後からいじることも可能だが、そうなるとキャパシティーと金を無駄にする、とセイルは考えてしまうのである。なので、セイルはできる限り小さいものを探していた。


 ようやく五件目で目的の魔導具を二つとも手に入れ、現在は宿である。


「ん……セイル、何、して、るのです?」


 寝ぼけまなこで目をこするリーレ。彼女は基本的に夜行性なので昼間は寝ていることが多い。


「魔導具の調律だ」


 そっけなく答えるのはセイル。

 彼がやっているのは魔導具の調律というよりかは、改造をしているといったほうが正しい。本来の使用用途ではないため、使えるように作り変えているのだ。


「おい、これを身に着けて起動してみろ」


 そう言ってセイルがリーレに渡したものは、改造を終えた魔力隠蔽の魔導具である。

 魔力隠蔽の魔導具は、使用者の魔力を実際より少なく見せる効果を持っている。実力を隠したい者や、魔物に見つかりにくくする必要がある者が身に着ける。しかしその効果は大きなものではなく、精々十の魔力を八に見せる程度である。

 リーレはセイルが差し出した魔導具を不安気に見つめ、仕方なく起動した。

 するとその瞬間、部屋の中の気配が変わった。それまではどことなく淀んだ感じだったが、その気配は無くなり、清涼な気配となる。


「ふん、成功か」


 セイルはそう言う。


「……何を、したの?」

「簡単なことだ。それは魔力隠蔽の魔導具を改造し、闇属性の魔力に特化させたものだ。神盾聖騎士団アイギスの連中が不死族アンデッドを探知できる理由は、不死族を不死族たらしめ、その体を動せる原因である死霊術ネクロマンスを感知できることにある。死霊術を構成するのは闇属性の魔力だからな、それを付けていれば神盾聖騎士団には見つからないってことだ」


 生物(ここには不死族も含まれる)の身体には生来、純粋な魔力が備わっている。それを魔法として構築するために、魔法と同じ属性に魔力を変質させる。死霊術は闇属性魔法の一形態なので、闇属性の魔力で構成されている。ならばそれを隠せばいいということである。

 先ほど、魔力隠蔽の魔導具は高い効果を示さないと言ったが、特定の魔力であるならばほぼ完全に隠すことが可能である。純粋な魔力は全ての属性の根元であるため隠すのが難しいが、属性魔力となれば簡単である。一般にはあまり知られていないことだが。


「そして、こっちもとりあえず完成だ」


 セイルは結界生成の魔導具を見せる。

 リーレが先ほどと同じように起動してみると、リーレの体が闇に包まれた。


「!?」

「結界を影属性の魔力で生成するようにした。これを起動させていれば日光には当たらない」

「……何も見えない」

「それについては大丈夫だ。案がある」


 リーレは結界を解き、ベッドに座った。


「明日の朝、この街を出る。今のうちに打ち合わせをしておくぞ。

 作戦は、さっきの魔導具を起動して堂々と街を移動する、ただそれだけだ。あまりキョロキョロしたり、怪しまれるようなことはするな。話しかけられてもできる限り無視しろ」

「それだけ?」

「ああ」


 そんなやり取りのあと、リーレは再びベッドの中に潜り込んだ。

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