第39話 今の自分にできること
それからは4人でテーブルボードゲームをしたり、バラエティ番組を観て笑ったり、時間が経つのを忘れてしまうほどに楽しい時間を過ごした。
気づけば夕方になっていたので慌てて帰ろうとすれば、楓華たちが玄関まで送ってくれた。
「今日はありがとうございました。凄く楽しかったです」
「私たちも楽しかったよ〜。あっ、そうだ。よかったらこれ、家に帰ってから食べて」
そう言って琴音が差し出したのは、高級そうな洋菓子が入っている紙袋。
「いいんですか?」
「いいのいいの。楓華がこの前和菓子貰ってたみたいだし、そのお返しってことで」
「いやそれは楓華が看病してくれたお礼で」
「細かいことは気にしなくてよし!」
「でも申し訳ないというか……」
「わざわざそんなに
「確かにそうだな。アンタもいちいち敬語で話されるの面倒だし、タメでいいよ」
「わ、分かりました」
「敬語じゃなくていいっての」
「……わかった」
和樹としては年上には敬語で話すことが当たり前だと思っているので、どうしても違和感を拭いきれなかった。
すると、紗夜の後ろに隠れるように顔を覗かせていた楓華がちらりとこちらを見ていたことに気づく。
「……あの、和樹くん。さっきの約束、覚えてくれていますか?」
「約束?」
「私が和樹くんの家に料理を教えに行くっていう約束です」
「もちろんだ」
「……楽しみに、してます」
「……おう。俺も楽しみにしてる」
和樹がそう返せば、楓華は満足気に笑みを浮かべた。
「今更だけどさ、この2人ナチュラルに下の名前で呼びあってるよね」
「言われてみれば確かに」
「……なんかこの2人、
「それな。爆発四散しろって思う」
その後ろで琴音たちが何かを言っていたような気がしたが、視線を向けても首をかしげられるだけだったので恐らく空耳だろう。
「それじゃあ、今日はお邪魔しました」
「はい。お気をつけて」
小さく手を振りながら、楓華はふわっと淡い笑みを浮かべる。
階段を上がればすぐに家に着くので気をつけるも何もないんだけどな、と思いながら、和樹は楓華の家を後にした。
──────
家に帰って晩御飯の準備をするために料理アプリを見ようとスマホの電源を付けると、メッセージアプリに幾つか通知が来ていた。
確認してみると、琴音からトークグループに招待されているとことだったのでとりあえず入ってみることにした。
「……楓華を愛でようの会?」
なんだこの意味不明なグループは、と和樹が首を傾げていると琴音からメッセージが送られてくる。
『どーも九条くん( *・ω・)参加してくれたみたいだね』
『お、やっと入ったか』
彩夜も参加していたようで、立て続けにメッセージが送られてくる。
『なんですか、このトークグループ』
『その名の通り、ひたすらに楓華を愛でるグループだよ(。´・ω・)』
『……俺要らないと思うんですけど』
『要るに決まってんだろ。あと敬語』
『なんかすまん』
『よろしい』
愛でるだけなら姉妹内でやればいいじゃないか、と思いながら、どうして自分が誘われたのかを確認してみることにした。
『どうして俺がこのグループに?』
『九条くんにはね、1つお願いしたいことがあるの(*´ω`)』
『お願い?』
『楓華がどんな学校生活をしてるのか教えてほしいの((¯ω¯*))』
『私たちが訊いても「大丈夫だよ」「楽しかったよ」ぐらいしか言わないからな。やっぱりより具体的な現地の声が聞きたい』
『現地の声って……。そもそも俺と楓華のクラス別々だから詳しくは分からないですよ』
『何でもいいんだ。なんか暗かったとか、元気そうだったとか。あと敬語』
『そんなのでいいのか?』
『うん。今回は九条くんが居てくれたからよかったけど、本来なら私たちが楓華を守らなくちゃいけない立場だからね。でも私たちも仕事とかがあるからさ(´・ω・)』
『そういうこと。そのために少しでも情報が欲しいんだ。詳細なものとかじゃなくても、日記感覚で教えてくれればそれで十分だぞ』
『分かった』
『おい敬語』
『お姉ちゃん……今のは九条くんが合ってたと思うよ?(*´・ω・`*)』
『あ、ほんとだ。すまん九条』
これまでのやり取りを簡単に見直すと、
〇──琴音と彩夜が訊いても楓華が本当のことを言ってくれない可能性がある。
(恐らくは余計な心配をかけたくないため)
〇──琴音たちも楓華の面倒をみたいが、自分の仕事や用事があるので、流石にずっとというのはできない。
〇──なので同じ学校の生徒かつ友人である和樹が楓華の変化に気づいたら、琴音と紗夜に連絡してほしい。
といった感じの内容だ。
『じゃあ、明日から報告すればいいってことですかね?』
『うん。でも、毎日絶対しなくちゃいけないってわけじゃないからね。特に何も無かったのなら送らなくても大丈夫だよ(´ー`*)』
『分かりました』
『ごめんね。ほんとにありがとう(´•̥ω•̥`)』
『別に大丈夫ですよ。友達として役に立ちたいですし』
『楓華が素敵な友達を持てて私は安心したよ……_( _ ́ω`)_』
『それじゃ私たちは戻るから。何かあったら連絡してくれ』
『分かりました』
そこで、琴音たちとの会話は終わった。
──生まれてこなければよかったんです。
考えてみれば、楓華の内に秘めていた感情があの一晩で解決したとは到底思えなかった。
和樹が
『こんな俺でよかったら、頼ってくれ』
頼ってくれ、なんて偉そうに言ったのだから、和樹もできる限り手助けするのが道理だろう。
「もう2度と、あんな想いしてたまるかよ」
和樹はぼそりと呟いて、黙々と夕食の準備を進めていくのだった。
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