第20話 ギブアンドテイクはテイク多めに(2)

『今更だけど作り置きありがとう。どれも本当に美味しかった』


 祝日をのんびりと過ごした和樹は、楓華に感謝の意を伝えるべくスマホでメッセージを送信していた。


 鶏の照り焼きやこんぶの佃煮つくだになどの色彩豊かな料理の数々。


 3食に分けて食べた楓華の料理は、どれもこれもが思わず舌鼓したつづみを打ってしまう程に美味しかった。


 やはりこれだけのものを作ってもらったのだから、きちんとお礼を伝えるのが礼儀だろう、と晩御飯を食べ終えた直後にメッセージを送った。


(あ、真治にもお礼言っとかないとな)


 眠かったせいであまり記憶に残っていなかったが、真治にも看病をしてもらったことを思い出した和樹は、楓華にお礼の連絡をした後、短くお礼を一言伝えることにした。


「この前は見舞いに来てくれてありがとな。プリンとか薬とかの代金は学校で返すから。お礼に今度何か奢らせてくれ、っと。これでよし」


 真治へのメッセージを送り終えると、和樹は再び楓華との連絡先のメッセージ欄を開いた。


 既読はまだついていなかった。


 その後、早く返信が来ないものかとソワソワしていると、数分ほどで1通の返信が送られてくる。


『いえいえ。あれから体調はどうですか。まだ動くことが難しいのであれば、私が何か作りに行きますけど』


 ここで自分に嘘をついて仮病を装えば、もう一度あの品々を食べられるではないか、という悪どい考えが浮かんでしまったが、僅かに残っていた良心がそれを拒んだ。


 流石に風邪で心身ともに弱っていたとはいえ、彼女の純粋無垢な優しさにつけ込むような非道をあっさりと認めてしまうほど、和樹のモラルは欠如していない。


『天野さんのおかげでもうかなり治ったと思うから大丈夫。心配してくれてありがとう』


 そう一言伝えれば、返信が送られてくる。


『お役に立てたならよかったです』

『ほんとに感謝しかない。看病してくれただけでも十分過ぎるのに、作り置きまでしてくれたなんて、本当に頭が上がらない』

『大袈裟ですね。私でなくても、誰だって知人が苦しそうに倒れていたら、看病ぐらいはすると思いますけど』

『そうだったとしても、ありがとな。助けてくれて』

『いえいえ。これからは気軽に頼ってくださって構いませんからね』


 送られてきたメッセージの内容を眺めつつやっぱり彼女は律儀な性格なんだな、と思い和樹は苦笑した。


『機会があればそうさせてもらうかも』

『はい。いつでも構いませんよ』

『でも、どうしてそこまでしてくれるんだ?』


 ふと浮かんだ疑問を問えば、直ぐにその答えは返ってきた。


『だって九条さんって、変な勘違いをしなさそうですし、純粋に喜んでくれたら私としても嬉しいので。あと、たまには人助けをするのもいいかなと』


 余計な勘違い、というのは恋愛感情云々の事を指していると思う。


 恐らく楓華には、異性に少し優しくされただけで自分に気があるのではないか、と都合のいいように解釈されてしまった経験があるのだろう。


 初めて話した時に距離感がやけに遠いなと感じたのは、楓華が和樹をそういった意味でも警戒していたからだと考えれば頷ける。


『そういうものなのか』

『そういうものです』


 なんの躊躇いもなくあっさりと肯定されたことに、和樹は再び苦笑した。


 その後も数回ほど心地よいやり取りを繰り返していると、そういえばもう1つ話さなければならない要件があることを思い出したので、訊ねてみることにした。


『そういえばなんだが、タッパーはいつ返せばいいんだ?』


 楓華が作り置きを詰めてタッパーは、和樹が食後にきっちりと洗浄している。


 流石に貸してもらいっぱなしは悪いので、いつ楓華に返そうかと洗いながら常々考えていたのだ。


『いつでも構いません。九条さんが都合がいい時で大丈夫ですよ』

『なら、今度会う時に返すよ』

『分かりました』


 今度会う時、という曖昧な期限だが、お互いにタイミングのいい時に返すことが出来ればそれでいいだろう。


『すいません。明日の予習があるので、私はそろそろ』

『おう。突然連絡して悪かった』

『別に苦ではありませんでしたよ。むしろ、楽しかったぐらいです』

『そうか』

『はい』


 楽しかった、という一言に胸の内が僅かに揺らいだのは気のせいだろうか、と小さな疑問が和樹の胸にふと揺らめく。


『それでは九条さん、おやすみなさい』

『おう、おやすみ』


 和樹が挨拶を返すと、子猫がすやすやと気持ちよさそうに毛布に潜り込んでいるスタンブが送られてきた。


 そのなんとも言えない可愛らしさに、つい頬を緩めてしまう。


「……俺も楽しかった、かな」


 楓華からのメッセージの履歴を眺めながら、和樹はこぼれるように、そう呟いたのだった。



〘あとがき〙

 どうも、室園ともえです。

 今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


 投稿が遅くなってしまってすいません。投稿する前に見直しをしていた時に、後の物語において矛盾点が見つかってしまい、修正をしていたために投稿が遅れてしまいました。


 ストーリーに一貫性を持たせるというのは簡単なようで実は難しいということを再認識するいい機会になりました。以後、気をつけようと思います。


 もしこの物語が面白い、先が気になる、と思っていただけたのなら幸いです。


 よろしければ、フォローや感想、★レビューや応援などお願いします。


 次回は明日投稿予定です。ちゃんと時間守ります。


 それでは、また。

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