第11話 変わりつつある心境
楓華が転校してきてから数日が経過したが、それによって学校内での彼女の話題が途切れる、というようなことはなかった。
むしろ以前よりも知名度が増し、話題にされることが多くなったような気がする。
その内容としては、彼女が可愛らしいといった質素な内容から、時折見せる笑顔が女神のように美しいというやや大袈裟なものまで、様々な場面で彼女の話題が上がっていた。
(転校してきてから注目浴びっぱなしだな)
本人はやたらめったらに話しかけられるのにはあまり慣れていないのか、次々と飛んでくる言葉をどこから返せばいいのかと困惑している姿をよく見かける。
(まぁ、もう少しすれば自然と落ち着くだろ)
当然と言えば当然なのだが、この前の1件以来、楓華が和樹と関わることはなかった。
恐らく、家の扉の前に蹲っていたときは家の鍵を無くしていて、それを何らかの理由で見つけることができたのだろう。
実際に楓華に訊いたわけではないので、あくまで和樹の勝手な想像だ。
もし違っていたとしても、楓華は家に入ることが出来ている筈なので、和樹としては特に問題はない。
家に泊めた件や購買の件は、偶然に偶然が重なって話す機会が多くなっただけで、それによって和樹と楓華の関係には、これといった変化はなかった。
強いて言えば、一切の関わりのない他人から、互いの名前を知っている隣人に変わったということだろうか。
その影響もあってか、通学中や移動教室で会うことがあれば、他の人に気づかれない程度に小さく会釈されるようになった。
「おー、大回転ロリ男じゃん」
そんなクラスのマドンナ的な存在になりつつある楓華に対して、相変わらず、和樹は、クラスのネタ枠的なポジションにいた。
「うるせぇ固定砲台マスター」
「もうそれ古いぞ。今はロリ男の時代だ」
「なんだロリ男の時代って」
「俺の宝? 欲しけりゃくれてやる。探せ! 的な時代」
「やめろ大後悔時代が始まっちまう」
「お、今日はノリがいいな」
「船の航海じゃなくて悔やむ方の後悔な」
「誰が上手いこと言えと」
不機嫌そうに和樹が返すと、真治はにやにやと不敵な笑みを浮かべる。
ロリ男というあだ名は、和樹が購買に昼食を買いに行く歳に「すぐに戻る」と伝えていた真治との約束を破ったことによる罰ゲームのようなものだ。
しかし、何故かそれをクラスメイトの一部が気に入ってしまい、元々あった「空中大回転男」というネーミングセンスの欠片も無いあだ名に「ロリコン」という真治の事実無根の発言を合わせた結果「なんか長いし、ロリ男でいっか」という結論に至ったらしい。
どうしてそうなるのだろうか。
「……ちょっとトイレ行ってくる」
「んじゃ俺も」
「付いて来るのか?」
「和樹と俺は2人で1つだからな」
「やめろ気持ち悪い」
「わー傷ついた。慰めて」
「そういうのは由奈にやってもらえ」
くだらないやり取りを交わしながら、和樹は読んでいた文庫本を閉じ、真治と2人で教室を出た。
廊下に出ると、暖房の効いている教室内との温度差に思わず身震いしてしまいそうになる。
「寒いですなぁ、とうとう12月ですか和樹さんや」
「そうだな」
「ってことはお待ちかねのクリスマスはもうすぐってことか!」
「それはお前がリア充だからだろうな」
「ひねくれてんなぁ……。ま、和樹もこの機会に彼女でも作ってみたらどうだ。例えば例の転校生とか」
真治からそう言われ、和樹は少しだけ楓華のことを思い出していた。
艶のある銀色のストレートヘアーに、整った
時折見せる静かな微笑みは、たとえ異性として興味がないと自覚していても可愛らしいと思ってしまう程の美貌がある。
そんな楓華が異性を好きになるとするのならば、その彼氏は余程自分に自信があるか、突出した才能の持ち主に違いない。
少なくとも、和樹のような平凡な男は選ばないだろう。むしろ、選ぶべきではない。
そもそも、楓華が和樹に惹かれる可能性など、万に1つもないだろう。
「この前にも言ったろ、俺は恋愛とか興味ないって」
「ちぇ〜。面白くねぇ奴」
「お前見てる限り恋愛って結構めんどくさそうだしな」
「その葛藤や試練を乗り越えるのが、結構楽しいんだけどな……和樹にはまだ早いか」
「なんだ子供扱いしやがって」
「実際俺らはまだ未成年だろ?」
「まぁそうなんだけども」
真治には、
聞いた話によると、中学時代の野球部で部員とマネージャーの関係だったらしく、居残って練習をしていた真治に由奈が一目惚れし、
詳細な成り行きは話せば長くなるとのことなので詳しくは訊いていないが、わざわざ根掘り葉掘り問い詰める必要もないだろう。
和樹はたまに真治のデートやプレゼントの
和樹が恋愛に意欲的にならない理由の4割はこれが原因だったりする。
「でも可愛いって思うだろ?」
「誰がだよ」
「話の流れ的に転校生だろ。察せよ」
「まぁ可愛いとは思うが」
「他には?」
「美人だな」
「そんだけ?」
「それ以外に何が──」
『……えへへっ』
何故かその時、和樹は楓華が和樹の家で
可愛い、とはまた違った別の感情を微かに意識してしまいそうになり、咄嗟にそれを抑え込む。
「どうした和樹?」
「い、いや……なんでもない」
ぎこちない返答になってしまったが、真治は特に気にする様子もなく「ふーん」と素っ気なく返答した。
(今までは偶然が重なっただけ。今後は会う機会こそあっても、関わることはもうない)
和樹は自分にそう言い聞かせ、脳裏に浮かんだ楓華の柔和な笑みを振り払うように意識を背けた。
〘あとがき〙
どうも、室園ともえです。
今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
話としては中途半端なところで区切りを入れてしまいましたが、これも主人公である和樹にとっての1つの転換期なので温かく見守ってくださると嬉しいです。
次回はまた来週に投稿します。
もしよろしければ、励みになるのでフォローや感想、★評価や♡など、お願いします。
次回もお楽しみに。
それでは、また。
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