第7話 白雪姫からの謝罪
遠慮しなくていいぞと言ったせいか、彼女はその後生姜スープを5杯もおかわりした。
その都度顔を赤らめながら細々と「お願いします」と言う彼女の姿は、妙に可愛らしかった。
体調もだいぶ回復してきたようで、うつらうつらしていた朱色の瞳は輝きを取り戻している。
「あの……」
空になったお椀と小鍋を洗っていると、転校生が部屋からリビングに顔を出していた。
どこか気まずそうに、ぎごちない笑みを浮かべている。
和樹は話の邪魔になるだろうと、蛇口の栓を止め、転校生に視線を向ける。
「どうした?」
「その、やっぱりちゃんと謝りたくて」
「なんで謝る必要が」
「それはもちろん……私のせいで九条さんに迷惑をかけてしまったからです」
彼女の表情はやけに暗かった。
後半になるほど小さくなっていくその声に、焦りや恐怖といった感情が含まれているのを感じる。
「別に迷惑だなんて思ってない」
「でも……」
胸の前で握られていた小さな手は、弱々しく震えていた。
「そもそも俺が勝手に助けたんだから、そんなに気にする必要はないと思うが」
和樹の返答に、転校生は瞳を歪ませる。
分からない、という表情だった。
和樹としては、苦しんでいる人を助けるのは当たり前だと思っている。
小さい頃から、父からそう学んできたからだ。
『人は支え合って生きている。誰も一人では生きていけない。お前も母さんも、もちろん父さんもだ。だから、もし苦しんでいる人がいたら助けてあげなさい。逆に苦しかったら頼りなさい。これは、父さんとの約束だ』
和樹が中学生のときに他界した父の言葉。その約束は今でも忘れたことはない。
「……でも、いつか」
彼女はほんのりと頬を染めてきゅっと唇を結んでいた。
「この恩は、必ずお返しさせてください」
べつにいいんだが、と返答しようとしたがやめておくことにした。
ここで彼女の気持ちを
「……でもな、恩を返すって言ったって何するんだ?」
「そ、それは……」
彼女はそっと床に視線を落とした。
和樹がどう言葉をかけるべきか考えている間、気まずい沈黙がリビングを満たす。
しばらく悩んだ末、和樹はこう言った。
「別に今回の件をだしに使って、俺が何かを要求するつもりは微塵もない。だから、そんな顔しなくていい」
仮に要求するにしてもそんな間柄じゃないだろ、と付け加えると、彼女はぱっちりと見開いた瞳でこちらを見ていた。
そして───その瞳に、涙が浮かぶ。
「……え?」
しかし、彼女にも泣いている自覚はなかったようで、自分の涙を拭って濡れた体操服の袖を見つめながら困惑していた。
「だ、大丈夫か?」
「……はい」
「……す、すまん。同級生に説教じみたこと言われるのは嫌だったよな」
「いえ……そうじゃなくて」
一向に止まることのない涙を手の甲で拭いながら、掠れた声で彼女は呟いた。
「どうしようもないぐらい……嬉しくて」
その言葉に、和樹は不意に内臓を掴まれたような気持ちになった。
彼女の事情を知らないとしても、こういった反応をされると彼女の境遇が嫌でも想像出来てしまったからだ。
……もしも、他人ではなかったのなら。俯いている彼女に手を差し伸べることが出来たのだろうか。
そんなやるせない気持ちを抱えながら、和樹はゆっくりと蛇口を
〘あとがき〙
どうも、室園ともえです。
今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
毎回お礼の文が似たような感じなので薄っぺらく感じてしまうかもしれませんが、PVやフォローなどの数値1つ1つにしっかりと感謝しているつもりです。
ほんとにありがとね。
次回と投稿は来週末の予定です。
少しでもクオリティの高いものを書けるように頑張ります。
よろしければ、気軽にフォローや感想、★評価や♡など、お願いします。
それでは、また。
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