第5話 白雪姫との出会い(4)
和樹は転校生を自室のベッドにそっと下ろし、暖房をつけた。巻いていたマフラーがかなり湿っていたので、彼女を起こさないように静かに外しておいた。
本来なら制服も着替えさせたほうがいいのだろうが、万が一脱がせている途中に起きられでもしたら、一切の弁解の余地が無くなってしまうので、大きめの巻きタオルで制服に残っていた雪を払っておくだけにした。
(最近は異性にAEDを使われたらセクハラになるとか言ってたしな……気をつけよ)
これで訴えられたらひとたまりもないな、と嘆息した後にもう一度家を出て、彼女の鞄を取りに行った。先程に比べ、夜風は更に冷たさを増していた。
寒気を感じるより先に、鋭い針に刺されたかのように痛いと感じてしまうほどだ。
転校生があのまま大した防寒着もなしで寝ていたら、凍傷になっている可能性すらあったのかもしれない。
和樹は、鞄に薄く積もっていた雪をはらって、両手で抱えた。急ぎ足で自宅に戻った。
「ただいま……」
ふと、そう呟いていた。他の人が自宅にいるということを意識したせいだろうか。
それと同時に大きな眠気の波が押し寄せてきた。頭が岩のように重たい。
リビングへ向かい時刻を確認する。既に時刻は深夜1時を過ぎていた。いつもならとっくに寝入っている時間帯だ。
「……コーヒーでも飲むか」
和樹はコートを脱ぎ、台所へと向かった。食器棚からマグカップを取り出し、インスタントコーヒーの粉を入れ、お湯を注ぐ。
本当は一気飲みしたいところだが、
「すぅ……すぅ……」
部屋に戻ると、つい先程まで和樹が横たわっていたベッドに心地よさそうに眠る1人の美少女の姿。
その透明感のあるさらさらとした銀髪に滑らかな頬や整った
改めて見ると、真治や他の生徒が彼女に注目していた理由が、少しは分かった気がした。流石に少し過剰すぎるとは思うが。
(ひとまず、こんなもんかな)
この部屋は暖房を強めに入れていたので、少しは冷えた体も温まっていくはずだ。
こういった時に湯たんぽでもあればいいのだが、残念ながら持ち合わせていなかった。今から買いに行くにしても時間が遅すぎる。
カイロならいいのではと思ったが、調べた限り寝ている時の使用はあまり健康的によろしくないとのことだったので断念した。熱すぎるのも問題らしい。
和樹はぐっと背伸びをして、その場に腰を下ろす。
「次は何をするか……」
咄嗟に思いついたのは「風呂を溜めておく」と「何か温かい料理を作っておく」の2つだった。
温まったといえど彼女の体の芯は冷えているだろうから風呂には入ってほしいし、あの様子だと晩ご飯は食べれていないだろうから体調を早く回復するためにも何か食べた方がいいだろう、という単純な理由だ。
少し考えた後、風呂は料理しながらでも溜めることができるので、先に風呂から手をつけようという結論に至った。
「おいて……かないで」
部屋を出ようとしたとき、彼女の縋るような声が聞こえた気がした。
もう起きたのかと確認してみたが、その瞼は閉じたままだった。恐らく、夢を見ていたのだろう。
少なくとも、楽しそうなものではないだろうなとは思った。何かに苦しんでいるような、耐えるような、そんな声だった。
『……大丈夫、ですから』
マンションの廊下で話したときも、似たような声音だったことがあった。何か含みのあるように感じられる、小さく
(……本当に、何があったんだろうな)
彼女の閉じたままの瞼には、小粒の涙が溜まっていた。やがてその涙は、彼女の頬を伝って、ゆっくりと流れていく。
すると彼女は、何かを掴もうとするように、天井に向かって手を伸ばしていた。しかし、何も掴むことが出来なかったその手は、パタリと力なく空を切る。
「すぅ……ん……」
小さな寝息とともに、彼女の表情が僅かに曇り、そっと眉根が寄せられた。
和樹は彼女を起こさないように静かに扉を開けて、自室を後にした。
〘あとがき〙
どうも、室園ともえです。
今回も読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
以前にもお伝えした通り、物語の進行が遅いのはお許しください。書き溜めは50話ほどあるので、定期的に更新されるのを楽しみにしてくださると幸いです。
(一応受験生なので、毎日更新は流石にキツイです)
よかったらフォローや感想、★評価や♡など、気軽にお願いします。
それでは、また。
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