罪は誰のもの

 サイパンに帰還した純真たちは、アメリカ記念公園に着陸して、ウォーレンを研究員たちに引き渡す。ウォーレンは完全に意気消沈して、無抵抗になっていた。


 一度パーニックスから降りた純真は、連行されるウォーレンを見送って、上木研究員に問う。


「これからウォーレンはどうなるんですか?」

「彼のした事は許されない事です。重い裁きが下されるでしょう」

「死刑ですか?」

「それは分かりません。そうなるかも知れません」


 険しい表情で答えた彼女に対して、純真は真剣な態度で頼み込む。


「あの人を死なせないでください」


 初めは敵意を剥き出しにしていたのに、どういう心変わりかと上木研究員は驚いた顔をする。純真は自分でも甘い事を言っていると分かっていたが、彼女の反応を見ても意見を変えようとは思わなかった。


「ウォーレンが暴走したのは、本人がどうこうじゃなくて、その……研究所の適合者の教育が間違ってたんじゃないんですか?」


 彼は上木研究員を責めたくないと思いながらも、ウォーレンの心に触れて自らの内に生じた疑問を率直に告げる。上木研究員には自覚があり、故に彼女は視線を逸らして俯いたが、純真は続けた。


「ウォーレンだけじゃありません。ランドも、ミラも、他の皆も同じだったんです。地球に残ってる全てのエネルギー生命体を回収して、二度と地球に帰れないまま永遠に宇宙をさまようって、そんなの死ぬ事と同じか、死ぬより酷いじゃないですか! でも、ウォーレンは言ってました。それが名誉な事だから、誰も彼もが自分が死ぬ事を望んでいるから、そうするんだって。だから、役目を果たせないまま生き残ってもしょうがないんだって……」


 上木研究員は何も言わない。適合者の研究と教育には、彼女も関わっていた。諫村忠志のケースを参考にして、地球を救う英雄を人工的に作り出そうと計画した人間の一人なのだ。


「ウォーレンが反乱を起こしたのは、そういう教育のせいであり、エネルギー生命体のせいであり、俺のせいでもあって……。とにかく、一人を罰して終わる問題じゃないと思うんです。もしウォーレンだけが罪を負わないといけないなら、オレは……、オレは研究所の人たちも許してはおけません」


 若い正義感に燃える純真に、上木研究員は驚いた。彼がここまで人間的に成長するとは思っていなかった。彼女は純真に敬意を表し、彼の瞳を真っすぐ見返して言う。


「純真くん、あなたの言う通り……私たちにも責任があります。ウォーレンは全くの無罪とはいかないかも知れませんが、私の力の及ぶ限り手を尽くします。彼が死ななくても良い様に」


 上木研究員は右手の小指を差し出した。


「約束します」

「はい。お願いします」


 純真は少し照れながら、自分も小指を差し出して、絡め合う。強く、しっかりと。



 翌日、ウォーレンのエネルギー生命体は、諫村に引き取られる事になった。研究員たちに加えて、純真と適合者たちも、その瞬間を見るために、ウォーレンの治療室に集まる。


 病衣でベッドに寝かされていたウォーレンは、研究員の事務的な説明を受けると、諫村を一瞥して目を閉じた。


「Do it that way」


 その態度は全てを諦めて、放棄しているかの様だった。諫村が無言でウォーレンに近付き、彼の左手を取る。

 純真は二人のエネルギー生命体が反応しているのを感じ取った。ウォーレンの胸部から腕を伝って、エネルギー生命体が諫村へと流れ込む。全てが終われば、自分も同じ様にするのだと純真は思った。


 約一分後、ウォーレンの体が遠目からでも明らかに震え始める。彼は苦しげに小さく呻き、弱々しい声で言う。


「I feel chilly」


 エネルギー生命体と同時に、体温も奪われているのだ。研究員の一人がウォーレンの額に触れて、焦った顔をする。


「His temperature is falling! Fetch a heater and blankets, hurry!」


 その呼びかけに応じて、数人の研究員が毛布とヒーターを取りに走った。


 数分後、ウォーレンは電気カーペットの上に置かれ、毛布に包まれる。それでも彼は悪寒が止まらず、震え続けていた。純真、ソーヤ、ディーンの三人は不安になる。エネルギー生命体が奪われるだけで、あそこまで苦しまなければならないのかと。



 約三十分間、ウォーレンは呻きながら震え続けた。その間、研究員たちは彼の体を擦り励ましていた。やがてウォーレンの体の震えは収まり、表情は和らいで、安堵した様に眠りに落ちた。

 諫村は彼の手を離し、静かに立ち去る。もうウォーレンからエネルギー生命体の反応は感じ取れない。


 ミラがウォーレンに話しかけようと近付くと、研究員に制止された。


「Is he all right?」

「Surely. Let's wait for him to wake up」


 ミラは心配そうな顔で引き返す。そのやり取りを見て、果たしてウォーレンはどうなったのかと純真が案じていると、ディーンが言った。


「上手く行ったみたいだ。命に別状は無いそうだよ」

「それなら良かった」


 純真は胸を撫で下ろし、改めてウォーレンを見る。誰もが彼の死を望んでいる訳ではないと知って、純真の心は温かくなった。

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