再々決戦を前に
ヨハネスブルクでも三機はアイアントールを問題無く無力化した。移動にかかった時間の分、都市の中心部は破壊し尽くされてしまったが、その他の被害は最小限に食い止められた。
三機のアイアントールを全て無力化した三機はサイパンに帰還する。先に帰還していた諫村が、格納庫で三人を出迎えた。
「その様子だと、上手くやれた様だな」
彼の発言に純真だけが浮かない顔で言い返す。
「自爆は止められました。でも、守り切れたかって言われると……」
「気負い過ぎるな。できる事をやったんだ。人に責められる謂れは無い」
「そういう事じゃなくて……」
「今は休め。決戦の時が近い。後悔も反省も、全てが終わった後にするんだな」
純真は諫村に正論を押し付けられて沈黙した。
去って行く諫村と入れ替わる様に、上木研究員が純真に声をかける。
「純真くん、お疲れ様でした。各国の代表から感謝の言葉を送られています。それにしても……派手にやりましたね」
彼女はパーニックスを見上げて言った。
表面装甲は融解しており、まさに完膚なき姿。イオンスラスターも破損している。よく機体が異常を来さず、無事に帰還できたものだと、純真自身も驚いた。
「決戦に向けて、更なる強化が必要でしょう。それはそれとして、純真くん、お祖父さんが来ていますよ」
「栃木のお祖父さんですね」
「そうです。ロビーでお待ち頂いていますが、すぐに会いますか?」
「はい。着替えたら、すぐ行きます」
純真は更衣室でパイロットスーツから普段着に着替えて、ロビーに向かった。
◇
純真はロビーで祖父・功大と会い、研究所内の二階テラスに移動して、話をする。
「暫く会わない内に、また大変な事になった様だな」
「あぁ、はい。でも、これで最後ですから」
純真の力強い瞳を見て、功大は嬉しそうに目を細めた。
「良い目をする様になった。覚悟を決めた戦士の目だ」
「そんなの分かるんですか?」
純真が疑わしい顔をすると、功大は頷きながら語る。
「現役の頃は、視察の名目で海外の危険な所を渡り歩いたものだ。そういう所では、多くの兵士は死んだ目をしていたが、中には確かな希望と信念を持って戦っている者もいた。君は彼らと似ている」
彼は元防衛省職員であり、実際に諸外国の情勢を見て回った後に、血迷って右翼活動を始めた。国も軍も頼れない中で、最終的に自分の身を守れるのは、自分だけだという確信を持ってしまったのだ。
しかし、彼が目にしたのは不信と絶望ばかりではない。絶望的な状況にあっても、諦めずに明日への希望を持って戦い続ける者たちも見て来た。功大は昔日の彼らと同じ輝きを、純真の中に見たのである。
純真は気後れして謙遜した。
「そんな立派なもんじゃないですよ。本当の勇者はイサムラさんです」
「そうだな……。十年前に世界を救ったのは彼であり、今また彼は僕の大切な孫を救ってくれた」
事実、諫村のお蔭で純真は死なずに済む。全てが終わった後で、全てのエネルギー生命体を引き受けて、孤独な宇宙旅行をする運命から逃れられた。しかし、それで全ての不安が解消された訳ではない。
純真は遠い目をして、祖父・功大に問う。
「でも、栃木のお祖父さん。オレは日本に帰れるんでしょうか? 帰って元の生活に戻れるんでしょうか?」
「……日本に受け入れてもらえないと思っているのかな?」
「総理大臣の新戸内って人は、『NEOを壊すな』と言いました。栃木のお祖父さんの事も、上木さんの事も犯罪者扱いで、オレが言う通りにすれば、オレと日本にいる家族だけは見逃すって。あの時はカッとなって、NEOを壊すって宣言しちゃったんですけど……」
功大は笑いを堪えながら、何度も頷く。
「いやいや、気にする必要は無い。君はまだまだ若いのだから、そのくらいの勢いが無ければ、人生つまらないよ。日本政府との話は付いている。僕が話を付けた」
「そうなんですか?」
「大人には大人のやり方があると言うだけだ。安心しなさい」
裏で取引をしたのだろうと、何となく純真は察していた。本心では真っ当に話を付けて欲しかったのだが、堂々と大手を振って帰れるなら、贅沢は言わない事にした。
◇
後日、研究所の上層部の協議で、再々決戦は一週間後――八月の十日にすると正式に決定された。
高熱で融けたパーニックスの装甲は、オーウィルを参考に更なる強化が施された。ソーヤとディーンの乗るビーバスターも、宇宙空間で戦った肥大化したビーバスターを研究して改造。ただ、異星人のロボットであるオーウィルを、本格的に研究して改造する時間的な余裕は無かった。
再々決戦の鍵を握る、諫村忠志の乗るオーウィルには、NEOを惑わすために見かけ上の追加武装が装着される。
決戦までの一週間、当然NEOが何もせずに過ごす訳がない。NEOは遂に地上へ向けて最終兵器を投入した。
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