心と力
純真が生み出したエネルギー生命体は、パーニックスに回収され、少しずつ高熱が収まって行く。熱による地上の被害は、アイアントールを中心に半径百メートル程度が消し炭になっただけ。その外側では少なくとも熱による被害は無い。
ソーヤとディーンは改めて純真に呼びかけた。
「純真、大丈夫?」
「返事をしてくれ」
それまで朦朧としていた純真は、明確に意識を取り戻す。
「あぁ、ソーヤ、ディーン……! ウォーレンはどこに? それと、デカブツは? どうなったんだ?」
彼は周囲を見回しながら問う。アイアントールは完全に蒸発した後で、今は跡形も無い。
ソーヤは純真を心配して尋ねた。
「記憶が無いの?」
「分からない。完全に気絶していた訳じゃないんだが……。オレの中から熱の塊が何個も飛び出した様な、そんな感じがあって……。ウォーレンは逃げたのか?」
「そうだよ。次はブラジルのリオだけど……行けそう?」
「ああ、体調は悪くない。逆に清々しい気分だ。行けるよ」
張り切る純真とは対照的に、ソーヤもディーンも不安だった。
二人の感情を読み取って、純真は告げる。
「本当に大丈夫だから。休んでる暇なんか無いだろ?」
沈黙して思案するソーヤに、ディーンも言う。
「とにかく行こう。リオの次もある。今は一刻を争う。何百万、何千万という人たちの命が懸かっているんだ」
「……そうだね」
彼女はディーンの言葉に同意して、機体のナビゲーションシステムに従いリオ・デ・ジャネイロに向けて飛んだ。
三機は加速を続けて、超音速で移動する。約一時間かけてニューヨークからリオ・デ・ジャネイロへ。
◇
移動中、ソーヤとディーンは常にパーニックスを気にかけていた。パーニックスはウォーレンの乗るビーバスター一号機の猛烈な熱攻撃を受けて、機体の表面装甲が一部融解している。今のところは問題なく動けているが、何かの拍子に飛行移動や姿勢制御に利用するイオンスラスターに異常が発生しても不思議ではない。
だが、パーニックスの出力は安定しており、二人の乗るビーバスターよりも好調な様子だった。純真は自ら先頭に立って風除けになり、二機のビーバスターをスリップストリームに入らせる。
ソーヤとディーンは不可解だったが、これも純真の中の強力なエネルギー生命体がなせる業なのだろうと、強引に納得した。
◇
純真たちがリオ・デ・ジャネイロに着いた時、ブラジルに降下したアイアントールは同市セントロ地区にて既に自爆の準備を始めていた。今から攻撃しても、自爆までには間に合わない。近隣の州を巻き込んで、州全体が虚無の荒野と化すだろう。
ソーヤとディーンは少しでも自爆のエネルギーを吸収しようと、アイアントールの付近で停止すべく、機体の速度を落とそうとしたが、純真は加速度を上げ続けた。
「純真!?」
同時に声を上げた二人に対して、純真は言う。
「このまま突っ込む! 自爆なんかさせない!」
パーニックスは加速しながら光の粒子を散布する。その小さな粒子の一つ一つがエネルギー生命体だ。純真が自分の意思でエネルギー生命体を生み出しているという事実に、ソーヤとディーンは驚愕する。
加速して行く中でパーニックスはエネルギー生命体の群れを纏い、煌々と輝く流星となった。その姿にソーヤとディーンは見覚えがある。宇宙の彼方から駆け付けたオーウィルと同じなのだ。
しかし、それでもアイアントールの自爆が僅かに早い。
「駄目だ、純真! 間に合わない!」
ディーンは叫んだが、純真は止まらない。止まれない。
限界を迎えたアイアントールの胸部が数ミリ秒で倍に膨らみ破裂する――瞬間、パーニックスが高熱と爆風の中を駆け抜ける。そしてV字を描いて急上昇。パーニックスと光の粒子が衝撃と熱エネルギーを吸収して、上空千メートルで光球となる。
アイアントールは地上にて、もう一つの光球に包まれた。地上の光球から、上空の光球に向かって、光の矢が放たれる。そして地上の光球は、徐々に弱く小さくなって行き、上空の光球が強く大きくなって行く……。
地上の光球が収まった後には、上半身が崩壊して下半身だけになったアイアントールの残骸が現れる。爆発のエネルギーが全て吸収された証拠に、地上は静かに凪いでいる。
ソーヤとディーンは唖然としてパーニックスを見上げた。二人の感情は畏敬、畏怖に似るが、どちらとも言い難い。ただ絶句している。
そこへ純真は呼びかけた。
「ソーヤ、ディーン! エネルギーの吸収を手伝ってくれ! 熱っ、熱っ、熱い!」
彼の声で二人は正気に返り、パーニックスに纏わり付くエネルギー生命体を吸収に向かう。ビーバスター二号機と五号機は、衛星の様にパーニックスの周囲を旋回し、エネルギー生命体を回収した。
ニューヨークからリオ・デ・ジャネイロまでの移動で多大なエネルギーを消費していた二人と二機は十分に回復し、更に宿しているエネルギー生命体も強化される。
◇
全てのエネルギーが三機に収まると、純真は間を置かずに二人に言う。
「次は南アフリカ、ヨハネスブルクだ! もう一仕事、やれるか?」
「ええ」
「急ごう」
二人は純真の精神力に感心しながらも、気合を入れ直して大西洋に進路を取る。
リオ・デ・ジャネイロから南アフリカまでは約七千キロメートル。ニューヨークからリオ・デ・ジャネイロまでと大きくは変わらない。純真のパーニックスを先頭に、ビーバスター二号機と五号機が追走する。
約一時間の飛行の間に、ディーンは純真に尋ねた。
「純真、あなたの力には驚かされるばかりだ。エネルギー生命体を生み出すなんて、どうやってるんだ?」
「どうって……こう、テンションが上がって、全身から、何かが飛び出す様な……」
純真は説明が悪いのは自覚していたが、他に良い表現が思い付かなかった。
ディーンは少し呆れて問いを変える。
「そもそも、どうしてそんな事ができる様になったんだ?」
「分からない。ただ……」
「ただ?」
「ウォーレンと接触した時に、彼の感情というか、思いが流れ込んで来て……オレは最初『死にたくない』と思ったんだけど、それ以上に……何とかできないかって思ったんだ。ウォーレンも助けられるんじゃないかって。そしたら……何か、勝手にできる様になってた」
参考にならないとディーンは苦笑いする。
彼の感情を読み取って、純真も苦笑いした。
「つまり……オレにもよく分からないんだ」
二人の話を聞きながら、ソーヤは一人で考えていた。エネルギー生命体は純真の心に応えたのではないかと。彼が窮地に陥る度に新たな力に目覚めるのは、強くありたいと願うからではないかと。
ウォーレン以外の適合者たちには、その思いが足りなかった。ランドもミラもディーンも、最終的にはウォーレンが何とかすると思っていた。彼らは来るべき時のための捨て石に過ぎなかったし、そうなるべきだと信じていた。
ソーヤはエネルギー生命体に乗っ取られていた時に、どうして純真に惹かれていたのかを察する。単純に彼の中のエネルギー生命体が強かっただけではない。彼が自分の意思を持って、自分で考え、より良い方向を目指して行動できるからなのだ。
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