勇壮なる者

巨兵の侵攻

次なる戦いに向けて

 それから諫村は研究所の中に通され、現状の説明を受ける運びとなる。

 純真は彼が仲間になってくれると信じていた。彼が全てのエネルギー生命体を引き取ってくれるなら、誰も地球を離れずに済む。純真にとって諫村忠志の存在は、あらゆる困難を解決してくれる救世主だった。



 翌日、訓練室でエネルギー生命体の制御訓練をしていた純真の元に、諫村が訪問して来る。


「君が国立純真だな?」

「は、はい。あ、あなたはイサムラさん……ですよね?」


 純真は十年前の英雄を前にして、柄にもなく緊張した。


「そうだ。少し話をしたいと思ってな」

「僕に宿っているエネルギー生命体の事ですか?」

「それもあるが……君のお祖父さんは国立功大なのか?」

「はい。父方の祖父ですけど……えー、イサムラさんは僕の祖父を知って……いるんでしたね、確か。……それが何か?」


 彼は上木研究員から聞いた話を思い出しながら言う。諫村忠志は純真の祖父・功大がリーダーを務めるレジスタンスの支援を受けて、宇宙人と戦っていた。


「何と言う訳でもないんだが、こんな偶然があるんだと思ってな。NEOの事は既に聞いた。かなり手強い相手の様だな。日本政府も全く余計な事をしてくれた。ウォーレンとかいうのを生み出したアメリカ政府も似たり寄ったりだが……。これからは私も君たちと一緒に戦う事になる。よろしく頼むよ」


 諫村は純真に握手を求めた。

 またエネルギー生命体の強さを計られるのだろうかと、純真は恐る恐る差し出された手を取る。

 握手した瞬間、純真は体中の熱が諫村に吸い寄せられる感覚に襲われる。それはエネルギー生命体の能力の差だ。しかし、不思議と恐怖感は無かった。熱を奪われると思ったのは一瞬の事で、今度は逆に諫村から熱が伝わって、純真の内に満ちる。彼は意図して純真からのエネルギー吸収を止め、分け与えているのだ。それは大いなる存在に抱擁されている様な安心感がある。


 諫村は純真に告げる。


「時が来たら、君たち適合者が宿しているエネルギー生命体は、全て私が引き取る。誰も犠牲にはさせない」

「あ、ありがとうございます。お願いします」


 純真が予想した通り、彼の登場は物事を全て前向きにしてくれた。誰も犠牲になる必要は無い。ウォーレンでさえも。悲壮な決意も覚悟も、全て彼が負ってくれる。

 純真たちは重大な懸念の一つだった戦後にエネルギー生命体をどう処分するかという問題に悩まされる事なく、NEOとウォーレンとの戦いに集中できる。



 同日の午後、ソーヤとディーンは救助したランドとミラの様子を見に、研究所内の治療室を訪ねる予定だった。二人は相談した結果、純真も誘おうと決めていた。


「純真、ランドとミラのお見舞いに行かない?」

「えっ、オレも?」


 訓練室にて二人の誘いを受けた純真は驚く。はっきり言ってしまうと、彼はランドとミラを快く思っておらず、その後の様子にも余り興味は無かった。しかし、誘われて断るのも薄情かと思い、一時だけでも同じ適合者の仲間として過ごしたのだから、見舞いくらいには付き合おうと決めた。


「……まあ良いけど、もう会って大丈夫なのか?」

「そんなに重傷でもないみたいだから」

「それは良かった。ところで、二人はランドとミラをどう思ってるんだ?」


 純真はそれとなく問う。答え難い質問だろうと分かってはいたが、「一度裏切った元仲間」に対する思いは聞いておきたかった。

 ディーンが困った顔をして答える。


「あれこれ言いたい事はあるけど、それでも……十年間、一緒に過ごして来た仲間だったから」

「許すのか?」

「許したいって言うのが正しいと思う」


 彼の言葉にソーヤも深く頷いた。純真は更に踏み込んで問う。


「ウォーレンも?」

「それは……」


 この質問ばかりはディーンもソーヤも答えられなかった。純真に配慮しているのではなく、二人自身もどうしたいのか分からないのだ。答えられない二人に、純真は小声で謝る。


「変な事を聞いて悪かった。とにかく、ランドとミラの様子を見に行こう」


 三人は研究所内を移動して、ランドとミラのいる治療室へと向かう。



 治療室の前で三人は研究員に止められるも、ディーンが話をして、通してもらえる事になった。

 ランドとミラは病衣を着せられて、治療室のベッドの上で横になっていたが、両目は開いていた。二人は見舞いに来た三人に気付くと、上半身を起こして振り向く。

 最初にディーンが二人に声をかけた。


「Land, Mira! Are you alright?」


 ミラは視線を逸らして俯き、ランドは警戒心を顔に表して尋ねる。


「What do you want from us? Or, are you come to laugh at us?」

「huh, so don't be negative. We are just worried about you. I'm relieved you look fine」

「You pity us?」

「No way. I'm glad you two survived」


 二人は英語で会話していた。

 純真はディーンの言っている事は何となく分かったが、ランドの言っている事は全く分からなかった。もうランドは適合者ではなくなっているのだ。

 ランドは一度純真に視線を送ると、ディーンに言った。


「Dean, tell Junma to what I'm about to say...um, Warren is afraid that Junma will steal his mission, because he thinks he should save the world. Ah...no, to be exact, he thinks the world must be saved him alone」

「Why does he think so?」

「That's his reason for existence, and ours too...isn't it? What have we trained for, for many years?」


 返す言葉を失ったディーンに、ランドは俯いて呟いた。


「I failed...I'm empty, worthless. Warren didn't acknowledge failure...」


 ソーヤが彼を慰める。


「Still you are alive. We'll survive too. Live together us」


 その言葉を受けて、ミラが泣き出した。ソーヤは彼女を抱き締める。幼い頃から一緒だった適合者たちは、最早家族の様な存在なのだ。これからも苦楽を分かち合う事に迷いは無い。

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