鉄の巨人

 再々決戦の準備が完了するまで、純真たち新NEO討伐隊は、NEOの地上攻撃に対応する事になった。諫村も討伐隊に加わり、純真たちと行動する。


 再決戦時の戦闘結果から、パーニックスとビーバスター二機には更なる改良が加えられた。パーニックスはシールドを強化した上で、冷凍砲を防ぐためにハードポイント装甲を増設する。ビーバスター二号機と五号機は、NEOに改造された三号機と四号機の武装を参考に、出力と装甲を強化した。



 再決戦から三日後、アメリカ東海岸バージニア州の都市リッチモンドに巨大な落下物があった。

 その正体は百メートル級の巨大ロボット。衛星軌道上から落下したダークブルーの巨大ロボットは、落下の衝撃だけでメガトン級の核兵器に匹敵する破壊力。三十キロトンという莫大な重量で地上を耕しながら、国道一号線を北上して首都コロンビア特別区を目指していた。


 鉄巨人「アイアントール」。NEOが地上破壊のために生み出した、陸上兵器。

 脚部はクローラーで、後部に耕運機の様なロータリーを備えており、文字通り。縦に長大な偉容は、接地面の圧力を増すためだ。地上のあらゆる物体を轢砕するためだけの破壊機械。

 更にアイアントールには数機の航空機が随伴している。万能戦闘機の雷山ではなく電子戦に主体を置いた情報収集機の嵐山らんざんだ。

 アイアントールの移動速度は時速二百キロメートル。巨体に比較すれば鈍重だが、決して遅い訳ではない。



 純真たち新討伐隊はアイアントールを追って、サイパン島からバージニア州北部へ急いだ。

 現地にはウォーレンの乗るビーバスター一号機の姿は無かった。敵が少ないのは良いのだが、それはそれで不気味さが残る。ウォーレンは何を企んでいるのか?

 もう純真は敵ではないと思って相手にせず、今度は諫村を打倒する策略を練っているのだろうか……。

 とにかく今はアイアントールを止める事が最優先。しかし、三十メートル級のパーニックスやオーウィルから見ても、アイアントールは倍以上の大きさ。正面から力尽くで止められる相手ではない。


 オーウィルに乗っている諫村が純真に告げる。


「エネルギー生命体の反応は巨大ロボットの胸部中央にある。分厚い装甲を突破しなければ、止められそうにないぞ。装甲の大部分は断熱装甲だ。エネルギー吸収攻撃は通用しない」

「分かりました。ソーヤ、ディーン! レールガンで断熱装甲を壊せないか?」

「やってみるよ」


 純真の要請に応えて、二人はレールガンの砲口をアイアントールに向けた。


「Fire!!」


 二十インチ砲が火を噴く。その反動はビーバスターの重量では到底受け止め切れないが、衝撃熱変換装甲とエネルギー生命体が、エネルギーを吸収して反動を最低限に抑える。

 音速の十倍もの速度で発射された弾丸がアイアントールの胴体に命中するが、何十メートルもある分厚い装甲を貫く事はできない。アイアントールの装甲は均一な材質ではなく、複数の装甲を重ね合わせた多層構造だ。表面の装甲を貫いても、衝撃が分散して中心部まで届かない。

 それにしても硬過ぎる。諫村はその秘密を見破り、純真に明かした。


「巨大ロボットから複数のエネルギー生命体の反応があった。機体の各部に仕込まれているエネルギー生命体が、装甲を強化している様だ。レールガンでの射撃とエネルギー生命体の排除を交互に行い、多層構造の装甲を一枚ずつ無効化するしかない!」

「わ、分かりました!」


 そう純真が答えた直後、嵐山が先行してコロンビア特別区に移動を始めた。同時に上空から雷山が降下して来る。純真たち討伐隊が巨大ロボットの相手をしている間、先に首都を叩こうというのだ。


 諫村は純真たちに告げる。


「君たち、ここは任せたぞ! 私は航空機を追う!」

「えっ!?」

「大丈夫だ。私一人で何とかする。君たちは何としても、あれを止めるんだ」


 彼は応答を待たず、嵐山を追って行った。

 純真は年長の諫村が不在になった事で不安を覚えたが、今は弱気になっている場合ではないと気合を入れ直す。諫村に続いて年長である彼が、ソーヤとディーンを指揮しなければならないのだ。


「ソーヤとディーンは射撃を続けてくれ! オレがエネルギー生命体の防御を無効化する!」

「了解!」


 純真の指示にソーヤとディーンは同時に応え、レールガンによる射撃を続行した。純真はアイアントールの胸部の着弾痕に向かって突進する。

 アイアントールは完全に地上破壊用のロボットであり、他の武装らしい武装は一切持っていない。巨大な腕を振り回す程度だ。

 パーニックスはアイアントールの腕を掻い潜り、破損個所に取り付いて、装甲を強化しているエネルギー生命体を奪う。そこへソーヤとディーンがレールガンでの射撃を加えて、より深く装甲を抉る。純真は一度アイアントールから離れ、新たな破損個所からエネルギー生命体を奪う。


 三機の連携でアイアントールは確実に装甲を削られていた。これで少なくともコロンビア特別区への進行は止められる。純真たちは勝利を確信したが、直後にアイアントールは進行を停止して腹を抱える様に縮こまり、防御を固めるだけになった。機体の内部では高熱が蓄積し始める。


(何をするつもりだ?)


 抵抗を諦めたのかと純真は思ったが、即座にソーヤが忠告した。


「純真! このロボット、自爆するつもりだ!」

「何だって!?」

「早く逃げて!」


 ソーヤとディーンは既に撤退を始めている。エネルギー生命体の暴走が引き起こすアイアントールの自爆は、ギガトン級の破壊力がある。このままでは一つの州が更地になるだろう。そんな事は知る由もない純真だが、周りにあるスタッフォードの街並みを見回して決意する。


「いや、逃げない! オレが爆発のエネルギーを抑え込む!」

「本気なのか!?」


 ディーンに問われて、純真は少し心が揺れたが、自分の中のエネルギー生命体を信じた。


「ああ、本気だ! これ以上、街を壊させない! 二人は離れていろ!」


 年長者という見栄もあったが、彼は自分ならできると思っていた。パーニックスはアイアントールの背面に回り、破損個所にレールガンを打ち込みながらアンカーランスを構えて突撃する。


「倒れろ! 倒れろ!」


 純真はアイアントールの背面にアンカーランスを打ち込むと、その先端にエネルギーを集中させた。数万度の高熱がアイアントールの装甲を融解させる。

 パーニックスは白色に輝き、自身の装甲をも融かして行った。純真は構わずアンカーランスを一層深く突き入れる。最早アイアントールの装甲は意味を成さず、封じ込めていたエネルギーが一気に解放される。

 それを全て受け止めようと、純真は高エネルギーの中心に向かって突き進んだ。


(熱い……! 受け止め切れない!)


 視界は真っ白で何も見えないが、膨大なエネルギーがパーニックスをも破壊して流入して来る感覚がある。無謀だったかと純真が悔やんだ瞬間、高熱が少し和らいだ。

 純真の背後にエネルギー生命体の反応が二つある。ソーヤとディーンだ。


「純真、頑張って! 私たちも協力する!」

「アメリカ人の僕たちが逃げる訳にはいかないからな!」


 二人の乗るビーバスター二号機と五号機は、ウィングを展開してパーニックスの背後に付く。三機は高熱と白光に包まれるが、三人はお互いのエネルギー生命体の反応を頼りに、意識を保ち続けた。



 ……アイアントールは燃え尽きて完全に消滅した。

 三機は巨大な一つの白光に包まれたまま、余剰エネルギーを真っ青な天空――宇宙に向けて放つ。

 莫大なエネルギーの塊が、雲を突き破って、宇宙の彼方に消え去った。


 ソーヤとディーンは力尽きて機体を地上に降ろし、跪いて心身を休める。純真は二人の側に降下して礼を言う。


「ありがとう、ソーヤ、ディーン。大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、大丈夫」

「あぁ、僕も大丈夫だ。お礼なんかいいよ」


 三人は少しの間、達成感を胸にその場に留まっていた。そこへ諫村の乗るオーウィルが、数機の雷山と嵐山を引き連れて戻って来る。


「そちらも上手くやってくれた様だな。おっと、安心してくれ。こいつらは私の制御下にある」


 諫村のエネルギー生命体を扱う能力は、群を抜いている。彼はNEOの支配下に置かれた航空機のコントロールを奪ったのだ。

 改めて彼の実力を目の当たりにした三人は、彼が味方なら何とかなるという確信を持った。

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