予測不能(後編)
突然の仲間割れに新討伐隊の三人は驚くも、これは千載一遇の好機だった。旧討伐隊を無視して、三人はNEOの本体へと急ぐ。
だが、その先にウォーレンの乗る一号機が猛烈な速度で割り込んだ。彼の異様な雰囲気に三人は怯む。これまでウォーレンを全く恐ろしいと思わなかった純真でも、今までとは全く違う威圧感に息を呑んだ。
「ウォーレン……」
「どうした純真、何を恐れている? 私が怖いのか?」
ウォーレンからは余裕と優越感が見て取れる。純真は恐れを感じ、反射的に冷凍砲を構えた。ソーヤとディーンも左右に散って、ウォーレンに冷凍砲を向ける。
ソーヤが純真に告げる。
「ここは私とディーンに任せて。純真はNEOを!」
「でも……」
純真は二人だけではウォーレンを止め切れないと分かっていた。ランドとミラのエネルギー生命体を吸収した彼は、この場の誰よりも強い。純真も含め三人がかりで、漸く互角……いや、まだ足りないかも知れない。
迷う純真にディーンが言う。
「僕たちの目的はNEOを倒す事だ!」
「……分かった。必ず戻って来るから、それまで耐えてくれよ!」
二人の懸命な訴えを受けて、純真はNEOを先に討つ決意をする。
しかし、彼の行く手をウォーレンが憎悪の混じった凄まじい執念で塞ぐ。ソーヤとディーンは足止めもできず、一瞬で振り切られてしまった。
「逃げるのか、純真!」
「あんたに構ってる暇は無いんだ!」
「NEOを倒すのは私だ! 邪魔はさせんぞ!」
「こいつ……マジで好い加減にしろよ! 邪魔してるのは、どっちだ!」
純真はウォーレンを振り切ろうとするが、機動力に勝るはずのパーニックスでも追い着かれる。そればかりかウォーレンは煽り運転の様に、進路妨害と体当たりを繰り返す。ソーヤとディーンに後方から冷凍砲で狙撃されても、蛙の面に水で全く問題にしない。機体を損傷させる事はおろか、短時間――ほんの一瞬だけ怯ませる事さえできない。断熱装甲で守られている事もあるが、それ以上にウォーレンはパワーアップしている。単純にランドとミラを吸収しただけではない。それ以前から彼はNEOの子機を吸収して強化を続けていたのだ。
つまりNEOはウォーレンの強化を見過ごして来た事になる。NEOは一体何を考えているのか、その真意は分からない……。
パワーアップしたウォーレンは途端に強気になって、純真を挑発する。
「本気で向かって来い、純真! お前を正面から叩き潰す」
「何言ってんだ、こいつ!?」
「逃げる者を倒してもつまらないからな」
ここぞとばかりに調子に乗るウォーレンを、純真は非難した。
「あんた、恥ずかしくないのか! この緊急時に自分勝手な事ばっかり言って!」
「私はお前さえ倒せれば良い! お前を倒して、私こそが世界を救う英雄となる」
「言ってる事とやってる事が狂ってるぞ!」
「分かっているんだろう? 私には勝てないと。だから逃げる!」
「NEOを倒した後でなら、戦ってやるよ!」
「そうはいかない。NEOに選ばれるのは私だ」
「『選ばれる』って……倒すんじゃないのか!?」
「お前には分からないのか……? フフ、ハハハ、そうだよなぁ! お前は所詮その程度の存在なのだ。取り立てて警戒する価値も無い! 分かった、苦しめずに殺してやろう!」
ビーバスター一号機の右腕に負のエネルギーが集中する。強力なエネルギー吸収フィールドが発生しているのだ。危険を感じて純真は距離を取ろうとしたが、やはり引き離せない。ソーヤとディーンは純真を援護したくとも、出力に差があり過ぎて一号機とパーニックスに追い着けない。
一号機の右腕から不可視の巨腕が伸びる。
これは純真が以前やった事と同じだ。巨腕はパーニックスを封じてエネルギーを根こそぎ奪おうと迫る。純真は懸命に逃れたが、振り切れずに捕まってしまう。
「死ね、純真! 今度こそ終わりだ!」
NEOと戦うどころの話ではなかった。ウォーレンの執念が全てを上回ったのだ。自らの死に直面した純真は、不思議と心安らかだった。
(ウォーレン、あんたが全てを成し遂げるのか? 俺を殺して、NEOを倒して、それでどうするんだ? たった一人で宇宙をさすらうのか)
彼はウォーレンに同情した。
(それなのに……こうまでしてもあんたは英雄になりたかったのか? それが他の何よりも……自分の命よりも大事だったのか)
彼にはウォーレンの心が分かる気がした。二人の中のエネルギー生命体が、二人の精神を伴って同化しつつあるのだ。
「純真、いけない!」
「抵抗するんだ!」
ソーヤとディーンが呼びかけるが、二人の声は届かない。
純真の精神は戦いの中で確実に疲弊していた。自分がやらなければならないというプレッシャー、無理解な日本政府に対する失望、戦後に待ち受けるであろう日本国民の苦境に対する憂い。一個人が全てを追うには重過ぎる。
ウォーレンの目論見通りに、純真の精神は限界を迎えていたのだ。
NEOはただ静かに佇んでいる。全てを観測するかの様に……。
◇
――その時、おおいぬ座方面の宇宙の彼方から地球に向かって飛来する一筋の彗星があった。
最初にそれに気付いたのは、NEOの子機。その情報は親機のNEO本体に伝わり、全機に警戒態勢を取らせる。
ウォーレンも遅れて流星の接近に気付いたが、余りの速度に反応が追い着かない。秒速五十キロメートルという高速で移動する彗星からは、強大なエネルギー生命体の反応。
「What's that!?」
ウォーレンだけでなく、ソーヤもディーンも、NEOでさえも接近する彗星の正体に驚いた。
それは一瞬でウォーレンの乗るビーバスター一号機の下半身を消し飛ばし、急停止して振り返る。大きさはパーニックスと同程度の三十メートル前後、白い甲冑を来た騎士の様な外観。
「Wha...what!? This is impossible! Why? How has this happened?」
この場にいる者の中で、ウォーレンだけは知っている。闖入者が十年前に地球を救った英雄、諫村忠志が乗っていたロボット、オーウィルだという事を!
機体から白炎を放つオーウィルのパイロットは、新旧の討伐隊とNEO、この場の全員を威圧して尋ねる。
「君たちは何故戦っている? 事情を説明してもらおう」
NEOは速やかに撤退を開始した。ウォーレンもNEOに続いて、上半身だけでも全速力で撤退する。
オーウィルは敢えて追わず、残った純真たちに改めて問いかける。
「君たちは何者だ?」
ウォーレンとの同化を中断させられた純真は、朦朧としながらも逆に問い返した。
「あ、あんたこそ誰なんだ……」
「オレは――私は諫村忠志の分身。地球に残ったエネルギー生命体を回収するため、宇宙の旅から戻って来た」
「イサムラ……あんたが……」
少しずつ純真は正気を取り戻し、改めて驚愕する。
「あんたが!? あんたがあのイサムラ・タダシなのか!? 十年前に地球を救ったっていう!?」
「正確には本人ではないが、そう思ってもらって構わない。君たちは地球人の適合者だな? どうして適合者同士で戦っていた? 嘘は通じないぞ、正直に話せ」
全く予想できなかった展開に、新討伐隊の三人は、ただただ驚くばかり。
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