予測不能(前編)

 宇宙空間に出た三機はデッドウェイトとなったブースターを切り離して、NEOの元に向かう。純真とソーヤは宇宙空間に出るのは初めてだったが、機体の操作感は空中を移動するのと余り変わらなかった。機体の制動に少し違和感があるのと、に落ちない点は異なるが、移動中に慣らしておく。

 エネルギー生命体は電磁波も吸収してしまうためレーダーに映らないが、適合者は同じエネルギー生命体の存在を感じられる。それが強力であれば、より強く。



 NEOは大群をなして地上百キロメートル地点に待機していた。討伐隊が討ち果たすべきNEOの本体は、太陽風を浴びながら大群の中心に留まっている。

 初めてNEOの本体を目の当たりにした純真は、その存在感の大きさに震えた。


(強い……)


 NEOは強力な太陽風を浴び続け、今日までエネルギーを蓄えていたのだ。


 そして純真たち新討伐隊の前に立ち塞がるのは……ウォーレン率いる旧討伐隊とNEOの子機。

 旧討伐隊の三機のビーバスターは、その姿を大きく変えている。機体全体が増加装甲でパーニックスと変わらない大きさに肥大化し、レールガンも単なる「ガン」とは呼べないまでに大型化。冷凍砲の冷却装置も同様だ。

 旧討伐隊のメンバーは、誰一人としてメカニックの専門的な知識を持っていない。機体の基本的な構造は理解しているが、補給も無い宇宙空間で、一から装備を製造する事は不可能。つまり、これ等の装備はNEOが製造した物だ。


 純真はウォーレンに呼びかける。


「ウォーレン、そこを退け! あんたに用は無い!」

「生意気な! 退けと言われて、退くと思うか?」


 ウォーレンは反論しながら冷凍砲を発射する。それを純真はシールドで防いだが、続けてランドとミラがシールドを狙ってレールガンを発射した。

 シールドは粉砕されるが、その間に純真はシールドを捨て、アンカーランスの先端をランドのビーバスター三号機に向ける。エネルギーを吸収する不可視の槍がランスの先から伸びるも、肥大化したビーバスターの装甲は貫けなかった。


「断熱装甲!?」

「同じ手は二度は通用しない! NEOは常にこれまでの戦いを学習して予測しているんだぜ!」


 ランドは冷凍砲を連射して純真に反撃する。それに純真は言い返した。


「それって、お前たちもNEOには勝てないって事だろ!? どうすんだよ!」

「知らないな! ウォーレンが何とかするさ!」


 ランドの無責任な態度に、純真は怒りを感じる。


 同時にソーヤとディーンも純真を支援すべく、それぞれミラとウォーレンに立ち向かっていた。ソーヤとミラの戦いは互角だが、ディーンはウォーレンに押し負ける。


「Dean, do you think you can win me?」

「No, I can't...but Junma may be able to win you. So you fear him, don't you?」

「Huh! You're right. He is the archenemy of us」

「Your "us" don't mean "me" or "human all". What are you afraid of?」

「You won't understand...!」


 ウォーレンの適合者としての能力は、他の適合者より一段上。サンディエゴでの戦いで撤退してから、更にエネルギーを蓄えて強くなっている。エネルギー生命体を操る技能に関しては、最も習熟していると言って良いだろう。その彼が純真には力負けするのだ。


 純真たち新討伐隊の敵は旧討伐隊だけではない。シールドを失った純真のパーニックスに対して、NEOの子機が冷凍砲で援護射撃する。未来予測が可能なNEOによる射撃は正確無比。連射で誘導しながら確実に当てられるタイミングを作り出し、効果的な一撃を加え続ける。


「冷たっ!」


 冷凍砲を食らう度に、純真は冷水を浴びせられた様な感覚を受ける。彼が怯むとNEOの子機は集中攻撃を開始する。


「こ、こいつらっ!」


 純真は懸命に回避に努めるが、止まっていても動いていても、NEOの狙撃からは逃れられない。パーニックスの出力が落ちて行く。


「小物が! オレの邪魔をするな!!」


 それでも純真は屈しない。溜め込んだストレスと怒りが爆発して、周囲に強力な閃光を放つ。


 絶体絶命の窮地にある純真を見て、ウォーレンは直感した。


「No! Stop, stupid! Don't corner him!」


 彼は純真が更なる能力に目覚める未来を明確に予見していた。そして、それは現実になる。

 急にNEOの子機からパーニックスへの砲撃が止み、その場で静止する。同時にパーニックスに大きなエネルギーが集まって行く。NEOの子機が連携して、純真にエネルギーを送っているのだ。


 ウォーレンは驚愕して吠える。


「That's enough! How strong can you be...」


 純真の中のエネルギー生命体は、NEOの子機に宿っているエネルギー生命体を支配して、従属させたのだ。

 ウォーレンは危機感を覚えて、ランドとミラを呼び寄せた。


「Land, Mira! Come over here!」


 二人は指示に従い、敵機を警戒しながらウォーレンの元に移動する。ミラが不安を露わに尋ねた。


「Warren, what happened?」

「Thank you two for your works over the past ten years」

「Why suddenly?」

「Your all works are over!」


 突如、ウォーレンの乗るビーバスター一号機の右腕が、四号機の首元を突き貫く。四号機からエネルギーが失われ、一号機に吸い上げられる。

 ランドは驚愕して声を上げた。


「Mira!! Warren, are you mad!?」

「I've no choice but to do this to transcend him! Land, dedicate your power for me, too!」

「Crazy...」

「I would do anything to win」


 ウォーレンの気迫にランドは抵抗する気力を失う。ビーバスター一号機は四号機を放り捨て、三号機の首元を貫いた。コックピットを一号機の手で鷲掴みにされ、三号機もエネルギーを失う。

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