再決戦

新たな戦力

 サイパン島のEB研究所に帰還した純真とソーヤは、二号機とディーンの処遇について話し合った。


「ディーンはどうなるんだろう?」

「私が彼を説得する。味方は多い方が良いでしょう?」

「そういう事じゃなくて……許してもらえるのか?」

「誰に?」

「よく分からないけど、研究所の人とか、上の方の人に」


 純真はディーンが反逆罪に問われるのではないかと考えていた。討伐隊のリーダーであるウォーレンに従っただけにしても、責任はあるのではないかと。それとも幼さを理由に免責されるのだろうか?

 そもそもを言えば、自分で責任が取れない子供を戦わせた、大人の責任になるのかも知れない。


「それも私が説得する。とにかく所長でも誰でも話をしてみる。最初から無理だって諦めたりなんかしない」


 強気に断言したソーヤに、純真は驚いた。自分より幼い少女が、大人と対等に交渉しようと言うのだ。それは純真の知る「大人と子供」の関係ではない。大人でも子供でも一人の人間には変わりない、強い自我と自負から来る言葉だった。

 彼は心の中で、自分の中の常識を改める。子供だからといって、大人の言う事にただ従っていれば良いのではない。寧ろ、子供だからこそ言うべきは言わなくてはならないのだ。



 果たして、その二日後……ディーンは純真とソーヤとミーティングルームで、一対二の面会する。大人の付き添いも無しの、子供たちだけの話し合い。

 それは重苦しい沈黙から始まり、まずディーンが純真に言った。


「純真、悪かった。僕は何も考えずに、ウォーレンの言う事に従ってしまった」

「何も考えずにって、そんな……」


 ディーンにとって研究所は実家の様な場所ではないのかと、純真は呆れた。そこから離れるのに何の不安や疑問も抱かなかったのだろうか?

 訝る純真にディーンは言い訳する。


「分かってもらえないかも知れないけど、ウォーレンの言う事は正しいと思ってしまったんだ。ウォーレンはずっと僕たちのリーダーだったから」


 純真は彼の言い分を理解しようと思ったが、やはり分からなかった。ソーヤが純真の横からディーンをフォローする。


「エネルギー生命体のせいだよ。私たちに宿っているエネルギー生命体は、私たちの感情や思考にも干渉するの。ウォーレンのエネルギー生命体は、私たちの中では一番強い力を持っていたから、私たちはどうしても彼に従ってしまう。最初からそれを見込んで研究所はチームを組ませていたんだけど、リーダーのウォーレンが敵対するのは想定外だった」


 彼女の説明に納得した純真は、ディーンに告げる。


「そんなに気にしなくても良いよ。もう敵にならないなら、それで良い」


 ディーンは大きく頷いて、純真に頼み込んだ。


「僕も一緒に戦わせてくれ」

「……大丈夫なのか?」


 純真の心配はディーンが再びウォーレンに従ってしまわないかという点にある。

 ディーンは疑念を晴らすべくソーヤに視線を送り、堂々と彼女に誓った。


「大丈夫だ。僕はもう迷わない」


 純真はディーンが自分に向かって言わなかった事を少し不満に思ったが、彼の心はソーヤに向いているのだろうと察して、何も言わずにおいた。とにかく味方が増える事は心強い。純真は彼を受け入れる。


「じゃあ、宜しく頼む」

「宜しくね」


 ソーヤがディーンに握手を求め、ディーンは迷わずそれに応じる。


「純真も」


 ソーヤは横で突っ立っている純真の手を、空いた片手で引き寄せ、握手の上に重ねさせた。ディーンが更に上に空いた手を置いたので、純真も残る片手を置いて、三人の両手が重なり合う。

 新討伐隊に三人目のメンバーが加わった瞬間だった。



 その後、純真は上木研究員に地下格納庫に呼び出され、再決戦用の新たな機体を紹介される。


「これが純真くんの新しい乗機です」

「でっかいですね……」


 ビーバスターは二十メートル弱だが、新しい機体はそれより一回り大きく、三十メートルはある。装甲の表面の質感は陶器に似ているが、金属の様な白銀色。


「ウォーレンたちが失敗した時に備えて、あなた専用に調整していた機体です」

「もう『ビーバスター』って感じじゃないですね」

「ビーバスターは『Bee killer』――『Robber fly』や『Assassin fly』とも呼ばれるムシヒキアブをイメージした名前でしたからね。これはパーニックス……ハチクマ属の学名『Pernis』と不死鳥の『Phoenix』をかけた名前です。機体のモデルは十年前に地球を救ったというロボット」

「イサムラって人が乗ってたっていう?」

「ええ。……ごめんなさい、こんな事になってしまって」


 上木研究員の唐突な謝罪に、とんでもないと純真は首を横に振った。


「上木さんが謝る事ではないですよ。まずはウォーレンを倒して、NEOを止める。その後の事は、それから考えましょう」

「そうですね……済みません、この大事な時に心を惑わす様な事を言ってしまって」


 暗い雰囲気を嫌った純真は、露骨に話題を切り替える。


「それより、パーニックスの説明をお願いします」

「……はい。パーニックスは現時点で最高の機体です。重量出力比(PWR)はビーバスターの三倍、エネルギー容量(BC)は同五倍、装甲強度(AS)・エネルギー変換効率(ECE)は同四倍、最大出力(MOP)に至っては同六倍でありながら、操作感は大きく変わらないはずです。しかし、一機しか間に合いませんでした。ソーヤとディーンには改良したビーバスターで戦ってもらいます」

「でも、機体が大きいと攻撃が当たり易くなって不利じゃないんですか?」

「適合者専用機に限っては違います。何よりエネルギー容量が重視されます。衝撃熱変換装甲があるので、被弾についてはエネルギー変換効率さえ高ければ問題になりません」


 純真は少し考えた後、こう尋ねる。


「NEOもウォーレンも楽勝って事ですか?」

「それは分かりません。NEOは自動でプログラムの改良を続けていますから……。ただウォーレンに関しては、ビーバスターの性能が変わらないのであれば、恐れる相手ではなくなっているはずです。でも、油断は禁物ですよ」

「はい、分かっています」


 上木研究員の言葉は、研究所の見解と同じだろう。アメリカはNEOこそが最大の脅威であると見做している。だが、純真は機械に過ぎないNEOよりも、人間であるウォーレンを警戒していた。

 彼は何をするか分からない。研究所から離反した事も、純真の理解を超えている。狂人の相手が最も恐ろしいのだ。

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