新たな戦い
ソーヤの復活
翌日、純真の予想通りにNEO討伐は純真が担う事になった。
だが、彼の戦いは孤独ではない。それまで死んだと思われていたソーヤの精神が、復活の兆しを見せたのである。
彼女は少しずつ自分から言葉を話す様になっていた。そして、どういう訳か彼女は純真との面会を熱望した。EB研究所の上層部は、上木研究員を始めとした数人の監視の下で、彼女と純真の接触を許可する。
上層部の最大の懸念は、ソーヤが敵意を隠している可能性であった。彼女はウォーレンから切り捨てられたのだが、その事実を研究所の者たちは知らない。ソーヤ自身も自分から積極的に疑惑を解消しようとしなかった。
◇
純真がソーヤと面会する事になったのは、適合者たちの離反から二日後。当初は純真もソーヤを信用しておらず、どういう訳かと困惑した。
面会場所は訓練室。上木研究員が純真とソーヤの間に、他の研究員たちは二人の背後に立っている。何かあったら即座に制止に入る構えだ。
久し振りにソーヤを見た純真は、彼女の表情を見て驚いた。彼女の両目には明確な意思が感じられる。
「純真!」
突然彼女に名前を呼ばれて、純真は慌てる。
「な、何?」
「あなたには分かるでしょう? 私はソーヤ」
「それは分かるけど……いや、人格違わない?」
純真に指摘されたソーヤは、苦笑いして告げた。
「これが私。私は私を取り戻せたの。あなたのお蔭」
「全然分からない。説明してくれよ」
「私の中のエネルギー生命体は、あなたの中の強い力に惹かれていた。そして学習したの」
「学習?」
「人間を利用する方法」
「利用って……」
「人間の心を利用する事で、エネルギー生命体はもっと大きな力を引き出せる。それを知った私の中のエネルギー生命体は、私の人格を呼び覚ました」
「そんな事が?」
「ある。あったの」
とても十代前半とは思えないソーヤの発言に、純真は困惑する。彼女の発言は余りに整然とし過ぎていて、逆に理解し難い。理屈どうこうではなく、心情的に受け入れ難いのだ。
(これがソーヤの本来の人格なのか? ディーンが言ってた『昔のソーヤ』?)
幼い頃から利発な子だったのだろうかと、純真は強引に自分を納得させた。ソーヤは嘘を言っていない。同じ適合者の純真には分かる。
ソーヤは純真の心の動きを読んで、宣言した。
「私はあなたと一緒に戦う。ウォーレンじゃなくて、あなたに従うべきと、私の中のエネルギー生命体は言ってる」
迷いの無い彼女の発言に、純真は眉を顰めた。
「エネルギー生命体の言う事を聞いて大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。自分の使命は忘れてないから」
そう強気に言い切られては、純真には何も言えなかった。ともかく味方が増える事はありがたい。たった一人で戦わなくて良い。その事実だけで心が軽くなる。
◇
しかし、敵は純真に猶予を与えてはくれなかった。NEOが新たな作戦に出たのである。これまでエネルギーを奪うだけだったNEOは、本格的に各国の都市を攻撃し始めた。
エネルギー生命体の行動パターンからは全く予測し得なかった事だったので、EB研究所の者たちの衝撃は大きかった。
NEOはエネルギー生命体の本能に従い、地球上のエネルギーを奪い尽くして太陽へと向かう。そして太陽を食らった後に、宇宙漂流の旅を始めるのだから、地上を攻撃する事は考えられなかった。エネルギー生命体が目的外の余計な行動を取るはずがない。そう思い込んでいたのだ。
◇
純真の二度目の出撃はアメリカ本土、カリフォルニア州の防衛だった。
NEOの活動で都市機能の大半を失いながらも、アメリカ西岸部は依然として国内最大の人口を抱えていたが、そこをNEOにコントロールを奪われたエルコン搭載の日本軍の戦闘機――「
あたかも太平洋戦争の復讐の様な構図は、両国の将来に暗い影を落とすだろう。そもそも今の事態は日本のせいだという風潮が、アメリカ国内には少なからずあった。そして何の皮肉か、NEOが操る日本軍の戦闘機を、アメリカ人の適合者たちが守っている。それを日本人の純真が阻止するというのだから、もう何が何やら。
純真とソーヤは二機だけで太平洋上空を渡り、ロサンゼルスに着く。二機は雷山と同時に、ウォーレン率いるビーバスター四機と戦わなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます