ロサンゼルス上空の戦い

 アメリカ有数の都市ロサンゼルスは惨憺たる有り様だった。十機の雷山の攻撃対象は戦略的に重要な施設ではなく、人家に集中していた。明らかに人間を狙って攻撃している。その理由が分かる者は誰一人としていなかった。NEOまたは雷山に、その様なプログラムが最初から仕込まれていたとしか考えられない。

 「戦争」を知らない純真は、戦闘機が人家を攻撃している事に大きな怒りを感じはしても、それ自体に動揺したりはしなかった。


 戦闘機は何度も市街地上空を旋回し、執拗に爆弾を投下して地上を攻撃している。雷山の開発コンセプトは新たな日本の防衛を担う「万能戦闘機」だ。日本軍はエルコンの能力を最大限に利用した、現代最強の航空兵器を完成させた。圧倒的な出力を前提とした、機動力と積載量の両立。戦闘機でありながら、地上攻撃機の能力も併せ持つ汎用性。それが今、殺戮兵器となってアメリカを攻撃している。


 雷山を止めようとする純真の前に、四機のビーバスターが立ち塞がる。一号機に乗るウォーレンが純真を挑発する。


「よく来たな、純真! だが、少しばかり遅かったぞ」

「ウォーレン、自分が何やってんのか分かってんのか!? こんな事して何になる!」

「分かっているさ。日本人のお前には堪らないだろう、純真! 歴史は繰り返す。真珠湾よ、もう一度!」


 敗戦国の屈辱から立ち直ろうとしていた日本を、再び地の底に叩き落とす様なウォーレンの言動に、純真は怒りを露わにする。


「この野郎ーーーーっ!!!!」


 彼はウォーレンの一号機に突進するが、当のウォーレンは正面から戦う気が無い。純真の注意を自分に引き付けて、雷山の攻撃を完遂させるのが目的だ。

 ウォーレンを追う純真。そして純真を狙うランドとミラ。敵意を察知して冷凍砲を避けながら、純真はウォーレンを追って問う。


「何故こんな事をする! 答えろ、ウォーレン!」

「知らんな。NEOに聞け」

「NEO!? お前の作戦じゃないのか!」

「そうだとも。私はお前さえ倒せれば何でも良い」

「ふざけるなっ!! 街が壊されているんだぞ、人が死ぬんだぞ!」

「大事の前の小事に過ぎない。純真、お前という脅威の前ではな!」


 そんなに自分は危険な存在なのかと、純真の心には迷いが生じる。だが、ウォーレンは本心を隠している。純真が脅威だというのは完全な嘘ではなさそうだが、隠された本心を知らなければ、信用する事はできない。



 一方で、ソーヤは冷静に雷山を止めるべく動いていた。

 雷山は機動性に優れているが、最大威力のミサイルでもビーバスターの装甲を破壊するには至らず、衝撃熱変換装甲も持っていない。どこまで行っても、やはり「最強の戦闘機」止まりだ。

 しかし、ソーヤにはディーンが向かう。ディーンの二号機はソーヤの五号機に接近して並進しながら呼びかける。


「Soya, can you hear my voice!?」

「Dean! Don't disturb me!」

「You...you return to consciousness!?」

「Yes」

「Great! Ah my God, it's truly! Unbelievable!」


 ソーヤの精神が元に戻ったと知って、大仰に感動を表すディーンだが、当人の反応は冷淡だ。


「And so? What do you do? You fight on me?」

「Ooh...I don't want to fight you. Come with me!」

「That's my line. I chose Junma over Warren. And you?」

「What!?」

「Answer me what you think. Did you choose for yourself?」


 ソーヤに問われてディーンの心に迷いが生じる。それを読み取って、ウォーレンが横槍を入れた。


「Dean! Don't be swayed!」

「W...Warren...」


 ウォーレンは舌打ちすると、崩壊した都市を一度見下ろして、純真に告げた。


「今日のところは、これで十分だ。だが、忘れるな、純真! お前がいる限り、私たちはNEOと共闘を続ける……。All unit's , draw off!!」


 四機のビーバスターは十機の雷山を伴い、急上昇して宇宙空間へと撤退する。宇宙用の装備を持たない純真とソーヤは、ただ見送るだけだった。



 成層圏で撤退中のランドがウォーレンに問う。


「Warren, when we defeat Junma in your plan?」

「Don't be in a hurry. We must not corner him. He seems to bring out his further potential whenever he's in a predicament. We must not develop him anymore...」


 深刻なウォーレンの口振りに、ランドは心配になった。


「Then what should we do?」

「We aim to press his mind, gradually and relentlessly. If so his mind will be broken soon. After that we just shatter him」


 淡々と答えるウォーレンがランドには酷く恐ろしく感じられ、彼を敵に回したくないと思った。ミラも同じ感想を抱いたが、ディーンは一人で浮かない表情をして未練のある目で一度地上を振り返る。高高度から純真とソーヤの様子など分かる訳もないのだが、それだけ彼の心には迷いがあった。

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