全てが敵になる

 ウォーレン率いる四機のビーバスターが、純真の乗る六号機に向けて一斉にレールガンを発射する。当然、狙うのはコックピットだ。コックピット周辺の装甲は他より頑丈だが、レールガンの直撃に耐えられはしない。衝撃熱変換装甲は膨大な熱量で融解して強度が落ち、爆散するだろう。

 純真が死ねば、エネルギー生命体は実体を失い、再び宿主を選択する。即ち、討伐隊の適合者の誰かに。ウォーレンは自分こそが、それに相応しいと信じていた。


 レールガンがビーバスター六号機に直撃する。衝撃が熱に変わり、機体の周囲に貼り付いた霜を昇華させて白霧を噴き散らす。だが、装甲は融解しない。純真は凍結した六号機の中で、必ず止めの一撃が来ると信じて、その時を待っていた。凍結したまま放置はしないだろうと。

 レールガンが装甲に直撃した瞬間の膨大な熱量は、エネルギー生命体を介して、機体を蘇らせる動力となる。


「やると思ったぞ!! もう許さんからな!」


 純真も熱を全身に漲らせて気炎を吐く。完全復活した六号機は、高みの見物を決め込み油断しているウォーレンの乗る一号機に向けて片腕を伸ばし、エネルギー吸収攻撃を放った。それは不可視の巨腕となり、離れた位置の一号機を封じて引き寄せる。その正体は指向化されたエネルギー吸収フィールドだ。

 ウォーレンは完全に不意を衝かれたが、出力を急上昇させて離脱を試みる。


「おおっ!? 純真、やはりお前は危険だ! お前こそが世界を滅ぼす!」

「何をっ! 自分から攻撃しておいて何を言う!」


 全力で何とか距離を取りエネルギー吸収攻撃を振り切った一号機は、全機に号令をかける。


「Non-continuable. All units, draw off!」


 四機はそれぞれ純真から離れて行き、ウォーレンの一号機に続いて上空へと撤退を開始した。彼に続く様に、NEOの子機も一斉に上空へ。だが、一機――ソーヤの乗る五号機だけは動かない。

 ディーンが二号機から声をかける。


「Soya, hurry! You want to be left behind!?」


 ソーヤは返事をしない。振り向く事さえしない。

 焦りを募らせるディーンに、ウォーレンが冷徹に告げる。


「Dean, discard her. It's her limit」

「Warren! Not yet...」

「Soya has no potential. We don't need her」


 ディーンは今一度ソーヤを振り返ったが、微動だにしない五号機を見て、苦渋の決断をした。


「I...I see...I understand」


 四機は五号機だけを置いて、上空に飛び去って行く……。



 純真は一機だけ取り残された五号機を見て、反応に困った。


「おい、何のつもりだ?」


 取り敢えず話しかけてみると、五号機はフラフラと危うい足取りで純真の乗る六号機に近付く。思わず身構える純真。敵意は感じないが、それ故に不気味さが増す。

 ソーヤは初めて彼の前で言葉を発した。


「ジュン……マ……」

「何だ……? 俺の事?」

「純真……」


 遂に五号機はバランスを崩し、大きく傾いて前のめりに倒れ込んだ。ガシャンと見かけの割に軽い音が響く。

 呆然と見送るだけの純真に、上木研究員から通信が入った。


「純真くん、大丈夫!?」

「あっ、はい。大丈夫です、上木さん」

「とんでもない事になりました。まさかウォーレンが……」


 上木研究員の声は沈んでいた。頼みの適合者が四人も離反してしまい、残るのは実質純真だけになってしまったのだ。しかもNEOよりも純真の打倒を優先させて。


「取り敢えず帰還してください、純真くん。疲れているしょう。あなたの任務は完了です」


 純真は倒れ伏した五号機を一瞥した後、サイパンの青い空を見上げた。どうしようもなさに震える彼の心とは裏腹に、太陽は燦々さんさんと地上を照らし続け、空も海も憎らしいまでに青く透き通っている。

 彼は現状を受け止め切れず、途方に暮れて上木研究員に尋ねる。


「この後、どうなるんでしょう……?」


 そんな事は決まっている。制御を失った四人の適合者に代わり、純真が一人で戦う事になるのだ。しかし、上木研究員は回答を避けた。


「それを決めるのは上層部の仕事です。純真くん、今は休んで」

「はい」


 純真は浮かない気持ちだったが、不思議と不安に支配される事は無かった。こうなる前から何となく最後は自分が戦う事になるだろうと分かっていたし、その事に抵抗感を持たなかった。寧ろ、自分が計画の主体となって、合法的にウォーレンを叩き潰せるなら、話が早くて助かると開き直った。

 ……自分が地球を離れる事になるかも知れないという事には、まだ考えが及んでいなかった。

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