反逆

 純真は孤軍奮闘するが、NEOの子機を止める事ができない。一方を止めようとすれば、必ず他方に隙が生まれて、漏れた物が研究所に攻撃をしかける。研究所の地上部は原形を留めておらず、地下にまで攻め込まれるのも時間の問題。


(数が多過ぎる! もっと、もっと力があれば!)


 純真は焦燥の中で、更なる力の覚醒を経験した。苦境に立たされた彼は研究所を守るために、バリアを張れないかと考えていた。そうできたらという強い願望に、彼の中のエネルギー生命体が応える。


(……できる!?)


 純真の中でエネルギー生命体との同調が一段と進行する。そして自分が打つべき最善手と、それをどう実行すれば良いのかが、直感的に浮かぶ。彼は機体を研究所の真上に立たせ、不可視のエネルギー吸収フィールドを展開する。

 半径五十メートルの範囲内で、NEOの子機が一瞬にしてエネルギーを奪われ、次々と墜落して行く。フィールドは同心球状に少しずつ拡大し、NEOの子機を機能停止に追い込みながら、半径百メートル余りでパッと消える。

 それより更に外には、まだ無数の子機が残っているが、微動だにしなくなった。想定外の事態に直面した人工知能が、解決法の算出に全力を注いで、行動を停止させているのだ。


 敵の猛攻が止まり、純真は長い息を吐く。


「助かった……」


 実際は戦闘が終わった訳ではないのだが、広範囲を一度にカバーできる防衛手段がある事は、純真を大いに勇気付けた。

 緊張の中、上木研究員が焦りを露わに声をかける。


「――純真くん、応答してください!」

「どうしたんですか、上木さん!?」

「それはこちらのセリフです! 急に通信が途絶えたと思ったら、NEOの子機が次々と落ちて……」

「ああ、それは……俺がエネルギーを吸収しました。離れた相手や、広い範囲からもエネルギーを吸い取れる様になったみたいです」

って、そんな事は今まで――」

「ええ。たった今、できる様になりました。大丈夫です。多分、俺一人でも守り切れます」


 純真の声は自信に満ちているが、逆に上木研究員は不安になった。純真の適合は確実に進んでいる。こんな事は他の適合者もできなかった。純真の適合の進行度は、他の適合者よりも進んでいるのかも知れない。果たして、どこまで純真は自分自身を制する事ができるのだろうかと。



 NEOの子機は研究所を取り囲んだままで静止し続けている。今度は計算の上での事だ。純真が下手に動かない様に、時間を稼いでいる。

 現状、NEOの最大の懸念は純真が積極的に動き出す事だった。研究所を包囲するだけで、それが防げるのであれば、十分と判断したのだ。


 そのままで長い時間が経過する。

 一時間、二時間……そして三時間が経とうという頃、上空から増援が到着した。

 百機弱のNEOの子機と、討伐隊のビーバスター五機。研究所の者たちは驚愕してウォーレンに通信で問いかける。


「Warren, what is the matter? What is happening or the problem?」

「The problem is he who is Junma, nothing else. We judged that he is the obstacle, so we must execute him」

「You judged!? Unacceptable! You don't have such authority! Your mission is destroying N.E.O. that is the first priority. Nothing can take the place it! Return to and complete your duty, right away!!」

「Shut up! You stubbornly didn't listen to my advice! So we never listen to you anymore. We follow only our will from now on」


 あろう事かウォーレンは研究所に反旗を翻した。そして純真に敵意を向ける。純真もそれを感じ取って、ウォーレンに尋ねる。


「ウォーレン、何のつもりだ!」

「NEOとは一時休戦だ。お前を殺す」

「何だって!? 正気か!?」

「正気だとも。お前こそが脅威だという一点で、私たちとNEOは一致した」

「どうしてそうなるんだよ! この野郎、頭おかしいだろ!」


 ウォーレンの乗る一号機以外の四機のビーバスターは、三角錐に陣形を展開する。純真は焦りを感じるも、NEOの子機がいるので動けない。


「All units, "freeze cannon", ready!」


 ウォーレンの号令で四機は冷凍砲を構えた。エネルギー生命体の弱点は冷気だ。冷凍砲を食らえば活動が停止する。


「さようなら、純真……! Shoot!!」


 四機が一斉に冷凍砲を発射する。ビーバスター六号機は冷気の集中攻撃を受けて、一瞬にして白い霜に覆われた。そして完全に動きを止める。

 ……その直前に純真は機体との同調を遮断していた。コックピットにもパイロットスーツにも一定の断熱性能がある。冷凍砲を受けても肌寒いだけで、凍死するには至らない。純真は無抵抗を貫き、四機の攻撃が弱まる瞬間を待った。即ち「擬死」だ。敢えて動かなくなる事で相手の油断を誘う。


 四機はバッテリーが切れるまでの十分間、冷凍砲を六号機に発射し続けた。機体の内部にまで冷気が侵入し、純真は身を縮めて震えを堪える。

 ウォーレンは上空から凍結した六号機を見下ろして、破壊命令を下す。


「We must completely destroy that thing. All units, "railgun", ready!」

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