処刑

 ウォーレンは他の三機に号令をかけた。


「Now, we are launching a power absorption. Get ready! Let's done!」


 全機が両手足を大きく開き、純真の乗る六号機に機体の正面を向ける。

 六号機は四機の電磁気力で宙に浮かされ、そのまま四機も上空に浮上する。再び空中で三角錐の陣形が作られ、純真はその重心にいる。スラスターが動かず、両手足にも力が入らない。


「な、何をするんだ!?」


 純真は狼狽して問いかけたが、返答は無かった。意識は明瞭なのに、金縛りの様に体だけが動かない。ウォーレンに「死んでもらう」と言われた事が怖い。


(こんな所で死ねるか! 訳も分からないまま殺されて堪るか!)


 心の中で彼は強く反発するが、その思いとは裏腹に、彼は完全に機体との同調を失った。ヘルメットのシールドの映像も消える。


(どうなった……?)


 純真はコックピットの中にただ一人、外の状況も分からず、困惑するばかり。



 その頃、ビーバスター六号機は上空数十メートルに浮かされていた。

 六号機からエネルギーが失われたのを見て、ディーンがウォーレンに言う。


「The target silenced completely」

「Don't be distracted. We must break and finish that」

「I...I see...」


 ウォーレンの静かながらも強い殺意に、ディーンは怯む。しかし、逆らおうとは思わない。研究所の適合者たちにとって、ウォーレンは従うべき存在なのだ。

 ウォーレンは全員に告げる。


「I do, do the myself. You just watch my doing」


 四機は三角錐の陣形を維持したまま、ウォーレンを頂点に移動する。

 そしてウォーレンの一号機だけが六号機に向かって落下を始めた。そのまま六号機を地面に叩き落として、機体を破壊するつもりだ。当然、中の純真も無事では済まない。


「死ねぇい!」


 交錯の瞬間、ウォーレンは明確に純真に殺意を向けた。

 一号機の膝が六号機の頭部を叩き潰す。六号機に衝撃が伝わり、純真のベルトが締まって息が詰まる。


「ぐわっ……な、何だ、何を!?」


 純真を襲う急速な落下感。途轍もなく嫌な予感がして、彼はウォーレンに呼びかける。


「ウォーレンさん、何を――!?」

「お前は危険だ! ここで消えてもらう!」

「い、嫌だっ!」


 純真は現状の把握もままならず、混乱している頭で、命の危機だけは理解した。

 ウォーレンの乗るビーバスター一号機は、六号機を足で押さえ付けたまま、地面に向かって垂直に落下する。いかに衝撃熱変換装甲といえども、耐久力には限界がある。強過ぎる衝撃を受ければ、耐え切れずに砕け散る。

 このままでは機体はバラバラ、中のパイロットは全身を強打して潰れる。恐怖と焦りの中で、純真の精神は限界を迎えてキレた。


「死んで堪るか! この野郎ーーーーっ!!」


 再び純真と機体が同調する。頭部は潰れて、カメラは機能していないが、どこに誰がいるのか直感的に分かる。まるで気配を感じ取っているかの様。六号機は一号機の脚を掴み、そこからエネルギーを奪い取る。

 三角錐の中で完全にエネルギーを失っていた六号機が動いた事に、ウォーレンは驚愕した。ウォーレンの乗る一号機が陣形から外れた事で、確かに四機の連携力は弱まったが、それでも六号機が再起動する事は無いと彼は踏んでいた。その計算が狂わされたのだ。


「こ、こいつ、まだ動けたのか!? いかん!」

「テメェ……この野郎! 殺してやる! 殺してやるぞ!」


 純真は乱暴な言葉を吐きながら、一号機を殴り付ける。だが、衝撃熱変換装甲が殴打の衝撃を弱める。殴っても手応えが無いと理解した彼は、今度は空中で一号機と体勢を入れ替えようとした。


「落ちろっ! お前が潰れて死ねぇ!!」

「やめろ、離せ!」


 一号機と六号機は揉み合いながら落下する。


 そして二機は同時に側面から地面に激突した。落下場所はアメリカ記念公園。二機は土の地面に小さなクレーターを作る。

 先に立ち上がったのは、純真の乗る六号機だった。ウォーレンは落下の衝撃で気絶している。純真の受けた衝撃も小さくはないが、彼は朦朧としながらも怒りの興奮だけで意識を保ち、一号機を蹴転がして、上空の三機を睨んだ。


「よくも、よくもやりやがったな! お前たち全員殺してやる……」


 三機は純真の放つ怒気に怯む。純真がウォーレンに勝ったのだ。

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