暴走の果てに

 NEOの子機の群れは研究所周辺の上空に次々と降下して来る。ビーバスター六号機は捕らえた子機から熱を奪い尽くし、冷たくなるとその場に放り捨てて、今度は子機の群れに突入し、次の獲物を狙う。

 純真は乗機がNEOの子機を捕らえる度に、自分の体に力が漲る感覚を得ていた。


(何だ、これは? オレの中のエネルギー生命体が、NEOの子機こいつからエネルギーを吸収している?)


 機体がNEOの子機をキャッチすると、彼の両手も熱くなり、その熱が腕を通じて体中に伝わる。彼は自分の体と機体が完全に同調していると理解する。


(この感覚は一体!? ロボットの機能、それともエネルギー生命体の仕業か?)


 彼が思考している間も、ビーバスター六号機は自動操縦の様に、他の子機を追い続ける。一向に止まる気配はない。



 一方でNEOの子機殲滅を妨害されたミラは、怒りを露わにしてウォーレンに問いかけた。


「Warren, is it O.K. to beat the airhead down!?」

「Wait, be calm. Our mission is to repulse N.E.O. so we'll beat him later. Fortunately, he seems to be hooked on bug hunting. Leave him for a while」


 しかし、ウォーレンは乗らない。ミラは歯噛みして悔しがるも、単独で挑みかかる事はしなかった。それだけウォーレンを信頼しているのだ。

 ランドがミラの気持ちを宥める。


「All of us will gang up on him after the garbage clean up」

「...So sure」


 四機のビーバスターは純真の乗る六号機を放置して、連携してNEOの子機殲滅を続行する。



 勝手に動くビーバスター六号機の中で、純真は機体との同調が徐々に強まっている事を実感していた。まるで自分の体が勝手に動いている様な気分だ。

 その中で純真はエネルギー生命体の意思を読み取る。


(そういう事なのか? エネルギー生命体は強い物が弱い物を取り込む。ああ……何て事だ! 今なら分かる! こうして力を取り込み続けて、最後には太陽を食らうんだ。オレも……)



 やがてNEOの子機は全滅し、五機のビーバスターだけが残った。

 研究所の適合者たちのビーバスター四機は、約百メートルの距離を保って、純真の乗る六号機を取り囲みにかかる。

 ウォーレンがオペレーターに現在の状況を伝えた。


「This is B.buster 1st. The first mission completed. We move the next action. Now, B.buster 6th is out of cotrol. We will being try to suppress it」

「Understood...we accept. You must try to harm the pilot as less as possible」

「Understanding. We'll do the best」


 純真はエネルギー生命体に感化された思考の中で、自分に向かって来る四機全てを敵と認識していた。


(敵意を感じる。皆、ここでオレを倒そうとしている……)


 ウォーレンを含めて、四機のビーバスターのパイロットは、誰一人として純真に警告をしない。抵抗を止める様にも、投降する様にも言わない。


(それが本性なのか? 仲間というのは振りだけで、本当は敵だと思っている?)


 ビーバスターは現時点では、武器を搭載していない。それは六号機も他の機体も同じだ。お互いに相手を傷付ける手段を持っていない。機体を止めるには、機能停止に追い込まなければならないのに、それが不可能なのである。格闘で機体を破壊するには、手足の強度が足りない。体当たりで衝撃を与えて、精密機械を故障させる程度ならできるかも知れないが……。

 そうなると必然的にエネルギー生命体の力を奪って、弱体化させるしか手は無くなる。


 ウォーレンが乗る紫色のビーバスター一号機が最初に動いた。緩慢な動きで垂直に上昇。それに合わせて、ランドの緑色の三号機とミラの赤い四号機が左右に展開する。ディーンの乗る青い二号機は六号機の正面に待機。

 四機は三次元的に純真を包囲すると、相対位置を変えずに移動を始める。よく訓練された動きだ。少しずつ速度を上げながら、一分の乱れも生じさせない。

 純真は四機を目で追う事ができない。どれか一機に気を取られると、他の機体が死角に回る。

 動揺する彼の隙を突いて、ウォーレンが号令をかける。


「Pyramid attack!」


 四機がそれぞれ純真の死角から一撃離脱の突進攻撃をしかける。一度目、二度目は避けられても、三度目からは避けられない。どこに移動しても、鉄壁の包囲からは逃れられない。その内に直撃を食らう様になる。

 だが、一撃一撃は重くない。これはビーバスターの衝撃熱変換装甲のためだ。アメリカは十年前に襲来した宇宙人の技術を不完全な形ではあるが、再現する事に成功した。

 しかし、完全に衝撃を無効化できる訳ではない。何度も攻撃を受ける内に、純真の乗る六号機はスラスターに不調を来して姿勢を崩した。


「死ねっ!」


 止めとばかりにミラが恨みと殺意を込めて、六号機に急襲をかける。頭上からの垂直落下蹴りだ。


「こいつらーっ!!」


 純真もやられてばかりはいられない。スラスターが動かなくとも、機体の手足だけは動く。彼は三号機の落下に合わせて、両拳を思いっ切り突き上げた。

 二機の腕と脚が絡み、縺れ合って落下する。ミラの乗る三号機はスラスターの噴射で素早く離れて逃れるも、純真の乗る六号機は背面から地上に落下した。ここでも衝撃熱変換装甲が機体への損傷を最小限に抑える。

 コックピット内の純真はエネルギー生命体の力で守られ、落下から即座に立ち上がると、次の攻撃に備えた。


 そこで彼は機体の制御が完全に戻っている事に気付き、通信で上木研究員に呼びかける。


「上木さん、上木さん! 機体の制御が戻りました!」


 しかし反応が無い。通信が遮断されている。

 ウォーレンがランドとディーンを伴って、純真を取り囲む様に上空から地上に降りて来る。ミラは再び純真の頭上に位置取り、ここでも三角錐のフォーメーションが保たれていた。

 ウォーレンは純真に告げる。


「無駄だ。ピラミッドの中では、電波も届かない」

「何を言って……? ウォーレンさん、機体の暴走は収まったんです! もう攻撃しないでください!」


 純真は必死に訴えたが、彼は全く耳を貸さない。


「それは良かった。このまま君には死んでもらおう」

「な、何ぃ!?」


 ビーバスターを暴走させた事が、そんなに悪かったかと純真は驚く。

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