適合者の訓練
純真はウォーレンに連れられて、研究所内の小部屋――初等訓練室に案内される。そこには積み木や小さなボールが何個も乱雑に転がっており、まるで幼い子供の遊戯室の様だった。
何をするのかと訝る純真に、ウォーレンは提案する。
「まずは君に宿っているというエネルギー生命体の力を見せてもらおう」
そう言いながら、彼は右手を差し出して握手を求めた。
純真は威圧感から応じるのを躊躇い、彼の大きな手を見詰める。
「大丈夫だ。危害を加えたりはしない」
ウォーレンは真っすぐ純真を見据え、落ち着いた声で警戒心を解こうと試みる。
ただ突っ立っているだけでは何にもならないと思い、純真は緊張しながら恐る恐る彼の手を取った。
そうするとウォーレンが力強く右手を握ったので、純真も負けじと力を込める。期せずして、がっしり握手。そして重苦しい沈黙……――特に何も起こらない。
純真は不安からウォーレンの顔色を窺う。彼の手は温かくも冷たくもない。
数秒後、真顔のままウォーレンは手の力を緩める。純真も手の力を抜いて、二人は自然な形で握手を終えた。
ウォーレンが無反応だったので、純真は心配になって尋ねた。
「どうでしたか?」
「……結構、強いね」
苦笑いで答えた一言に、純真は驚く。少なくともウォーレンに宿っているエネルギー生命体と互角程度には強いというのだ。
純真は率直に疑問をぶつける。
「ちゃんと取り除けるんでしょうか?」
「それは訓練と君の意志次第だ」
「……頑張ります」
純真はそう答えるしかなかった。とにかく今はエネルギー生命体を制御できる様になるまで努力するのみ。
直後に彼は辺りを見回しながら、改めてウォーレンに尋ねる。
「それで……訓練って何をすればいいんですか?」
ウォーレンは至って真面目に説明した。
「簡単に言えば、エネルギー生命体の気持ちを考えるんだ。エネルギー生命体は大きな可能性を秘めている。完全に制御できれば、熱や光のエネルギーを自由自在に操る超能力者になれる」
「超能力?」
「サイコキネシスとか、テレパシーとか、そういうのだよ。私たちがこうして会話できるのも、その一種だな」
「へぇ、そうなんですか!」
本当にそんな事ができるのかと、純真は疑うよりも楽しみになる。超能力が使えるとは、漫画の主人公になった気分だ。
本物の超能力者になるために、純真はウォーレンに問いかけた。
「でも、エネルギー生命体の気持ちって何ですか?」
「それは一にも二にも『エネルギーが欲しい』だな。そのためになら、多くの事ができる様になる。そうして力の使い方を体で覚えていくんだ。論より証拠、まずは見てもらおう」
ウォーレンはそう言うと、床に転がっている一個のボールに手の平を向ける。
次の瞬間ボールが宙に浮き、まるで鉄片が磁石に吸い寄せられる様にスッと彼の手の平に収まった。
「あっ!」
本当に超能力みたいだと純真は感動した。これと同じ事が自分にもできるかも知れないのだから、訓練にも力が入ろうというもの。
試しに彼はそこらに転がっている積み木に手の平を向けたが、やはり動かすはできない。彼の行動を見て、ウォーレンは小さく笑う。
「いきなりは無理だよ。最初は『これ』から始めるのさ」
そう言って取り出したのは単五乾電池。
「これならエネルギー生命体もやる気が出るだろう。これを手の届かない所に置いて、引き寄せる練習をする。それができたら、今度は透明なアクリル板の迷路から電池を取り出す。そうやって段階を踏んで、少しずつ能力を身に付けていくんだ」
ウォーレンの説明に純真は納得して、彼が持つ単五乾電池に手の平を向けた。
直後、乾電池が純真の手に向かって飛んで来る。
「わっ」
純真は目を剥いて驚いた。乾電池は彼の手の平に当たり、まるで磁石同士がくっ付く様にビタッと貼り付く。
ウォーレンも静かに目を剥いていた。
数秒の沈黙後、ウォーレンは真顔で詰問する。
「今のは意識してやったのか?」
「えっ、いや、違……」
「無意識だったのか?」
「それは……ちょっとやってみようと思っただけで……。予想外にできてしまったと言うか……」
気弱な態度で言い訳する純真に、ウォーレンは厳しい視線を向けている。図らずも奪い取る形になったので、それが逆鱗に触れたのだろうかと純真は恐れた。
ウォーレンは小さく溜息を吐き、表情を緩める。
「君の中のエネルギー生命体、制御するのに苦労しそうだな」
その一言に純真は苦笑いしかできなかった。
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