適合者たち――世界の希望
突然純真が声を上げたので、上木研究員は一度彼に目を向けた。彼女は初め、純真も高校生なのだから簡単な英語は理解できるのだろうと思った。「a small fry」=「雑魚」は普通なら学習しない表現ではあるが、難しい単語ではないので、知っていてもおかしくはない。
しかし、少年少女らの反応は違った。
「へえ、分かるんだ」
「やっぱり適合者なんだね」
純真には少年少女らの言葉も分かる。
「日本語が話せるのか?」
日本語での純真の問いかけに、子供たちはくすくすと内輪で笑うばかりで答えなかった。
上木研究員も子供たちの反応を訝り、大人の男性に尋ねる。
「Warren, what do they mean?」
「適合者は適合者同士、お互いの意思が通じるんだ」
彼は純真と上木研究員、両者に対して説明した。その事実に純真も上木研究員も驚く。
純真は堪らず問いかけた。
「……僕が言ってる事も分かるんですか?」
「ああ、勿論」
大人の男性は平然と頷き、自己紹介を始める。
「私の名はウォーレン。この研究所の適合者第一号だ。ここにいるのは全員適合者。君の仲間だよ」
彼に続いて、子供たちも自己紹介を始めた。
最初に名乗ったのは活発そうな色黒の少年。
「オレはランド、それで隣のが――」
「私はミラ」
続いてアジア人に近い顔立ちの黒髪青目の女子が名乗る。
二人は仲が良いのか悪いのか、視線を交差させて同時にそっぽを向く。それを更に隣の金髪の少年がやれやれと呆れた目で見ていた。
「ああ、僕はディーンです」
最後に一人の茶髪の少女が残る。全員の視線が彼女に集まり、数秒の沈黙。
彼女が真顔で純真を見詰めたまま口を利かないので、ディーンが代わりに彼女を紹介した。
「彼女はソーヤ。無口っていうか、ちょっと色々あって変わった子で……」
ディーンは苦笑いする。所謂「不思議系女子」なのかなと純真は理解した。一連の流れから、自分も自己紹介をすべきだと思い、彼自身も名乗る。
「オレは国立純真。日本の高校生だ」
適合者たちが会話する様子を見ていた上木研究員は、不可解な顔をしながらも現状を受け止めて頷く。
「話が通じるなら良かった。これから純真くんには、彼ら――適合者たちと同じ様な訓練を受けて、自分の中にいるエネルギー生命体を制御できるようになってもらいます」
「制御?」
「はい。エネルギー生命体を宿主から分離させるには、ある程度の制御が可能でないと難しいという研究報告があるので」
「そうなんですか……」
純真は研究所の適合者たちを見回して、上木研究員に尋ねた。
「この人たちも事故か何かで宿ったエネルギー生命体を分離するために、研究所に来ているんですか?」
その問いに対して、また子供たちがくすくす笑う。物を知らない扱いをされていると感じた純真は、眉を顰めて子供たちを睨む。
しかし、子供たちは態度を改めようとはしない。ランドが全員を代表して言う。
「オレたちは世界の希望なんだ。そのために適合者になったんだよ」
「世界の希望? 適合者になった?」
彼の口振りは自信と自負に満ちていた。理解不能だと純真はオウム返しする。
その疑問に答えたのはウォーレン。
「連邦政府は十年前から、今回の事態を予測していた。再びエネルギー生命体が地球の脅威になる時が来る……と。私たちは脅威に立ち向かうために選ばれたんだ。君とは事情が違う」
「地球の脅威って、これから何が起こるんですか?」
純真は日本の一部地域が停電した事しか知らない。それにここサイパンの研究所には電気が通っている。驚異的な科学力を持った宇宙人もいないのに、本当に十年前と同じ事が起こるのか、エルコンが失われるだけでは済まないのか、純真は半信半疑だった。
彼の問いを聞いて、三度子供たちが笑う。
「何も知らないのか? 日本人なのに!」
ランドの嘲る様な物言いにも、純真は困惑するばかりだ。
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