戦いの中へ

五人の救世主たち

サイパンEB研究所

 潜水艦はサイパン島北部のサイパンサブマリンに着く。

 純真は祖父に連れられ、常に数人の軍人に囲まれて、軍用車でサイパン北西部のアメリカ記念公園近くの建物に移動した。


 言葉の通じない屈強な男たちは、何かと純真の行動を制限したがり、その事に純真は腹を立てるより、恐ろしさを感じていた。軍人たちは純真を過剰なまでに警戒している。電子機器だけでなく、自分の服に触られるのも嫌だという風だ。

 高圧的で有無を言わせない態度の軍人に、純真の祖父・功大は毅然と抗議した。当然、抗議も反論も英語なので純真には何を言っているのか分からなかったが、祖父が味方であるという事実だけが彼の救いだった。



 季節は夏だが、南国のサイパンは過ごし易い気候だ。のではなく。十年前の世界的な寒冷化の影響がまだ残っている。

 地球を襲った宇宙人は、地球からあらゆるエネルギー資源を奪い、地熱まで奪って行った。その後もエルコンを利用した太陽光発電所が、地上に届く太陽光の大部分を吸収して、大気や大地へのエネルギーの散乱を防いでいるために、寒冷化が長引いているという。



 純真が連れて行かれた建物の名前は、サイパンEB研究所。

 EBとはEnergy-Being、即ちエネルギー生命体の略である。

 アメリカは同じく十年前の真相を知る国と協調して、世界中から優秀な研究者をサイパンに集め、今日まで対エネルギー生命体戦略の中心となるべく、エネルギー生命体の研究を続けてきた。しかし、エネルギー生命体の存在を認めていない日本に目を付けられない様に、その名目を表立って掲げてはいない。

 現在でも日米は友好国だが、その関係は宇宙人襲来前後で大きく変わった。完全に立場が逆転した訳ではないが、大部分で日本優位になったのである。


 研究所は外観も内装も一見した所では完全に病院であり、所内を行き交うスーツ姿の大人に混じって、白衣の研究者らしき者が見られる。

 軍人に囲まれて祖父と研究所の待合室で着席して待機している純真の元に、一人の白衣の女性が歩み寄って来た。一見して明らかに東アジア系の風貌。長い黒髪を後ろで束ねてポニーテールにしている彼女は、まず純真の祖父・功大に話しかける。


「国立さん、お久し振りです。彼が例のお孫さんですか?」

「ああ、そうだ」

「それは……何と申し上げたら良いか」

「気にしないでくれ。これも因業なのかも知れん」


 日本語で会話している事から、彼女は日本人だろうかと純真は思った。異国の地に話の通じる日本人がいる事は心強い。

 白衣の女性は純真に目を向けると、柔和な笑みを浮かべて名乗る。


「初めまして、純真くん。私は上木新理かみき しんり。この研究所でエネルギー生命体の研究をしています」

「あ、はい。初めまして」


 純真は着席したままで一礼した。


 その後、軍人たちは上木に任務の終了を伝えて退出する。軍人たちが去り、純真は解放された気分で、大きな溜息を吐いた。

 上木研究員は改めて功大に話しかける。


「それでは国立さん、純真くんはこちらでお預かります」

「頼むよ」


 それを聞いて純真は焦った。功大は純真をここに一人置いて帰ろうとしている。


「栃木のお祖父さん、俺は治してもらえるんですよね?」


 功大に代わって上木研究員が彼の問いに答える。


「まずは検査してからです」


 純真は祖父から上木研究員に目を向けて尋ねた。


「何日ぐらいで帰れますか?」

「確かな事は何も言えません。あなたの体に宿っているエネルギー生命体の強さ次第……でしょうか」

「強さ?」

「エネルギー生命体には明確なランクがあります。『王の後継者』と呼ばれるリーダークラスと、それに従属する一般的なクラス。後者であれば、早期に解決する事が可能であると考えます。経過にもよりますが、最短でも数日の滞在は必要ですので、そのつもりで」

「……分かりました」


 話を聞いた純真は、自分に宿っているエネルギー生命体がリーダークラスでない事を祈る。

 純真の祖父・功大は改めて上木研究員に頭を下げた。


「では、僕はこれで。純真、定期的に様子を見に来るから」

「あ、はい」


 功大は純真が寂しがらない様にと配慮したが、当の純真は祖父との微妙な距離感に内心困っていた。事実として彼は功大に余り親しみを持っていない。現状で唯一頼れる身内ではあるが、それだけだ。仮にホームシックに罹ったとして、祖父の訪問で気分が和らぐかというと、これもまた微妙。


 功大が去った後に、上木研究員は純真に言う。


「それじゃあ、検査しましょう。私に付いて来て」


 純真は上木研究員に、広いミーティングルームへ案内される。

 そこでは純真より若い、恐らく小学生か中学生くらいだろう四人の少年少女と、一人の大人の男性がいた。全員体育のジャージの様な制服を着て、横並びに整列しているが、いずれも顔立ちは日本人ではない。

 上木研究員は純真を五人の前に立たせて英語で紹介した。


「He is the new suited from Japan. Warren, tell me your views about him」


 長身の白人男性は、純真をじっと凝視する。


「雑魚ではなさそうだが」


 彼が日本語を話したので、純真は驚いた。


「雑魚だってぇ!?」

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