文明の灯が消えた夜
かくして無事ロボットから降りられた純真だったが、その後は発電所の職員や警察に何度も質問される事になった。
しかし、純真から言える事は何も無い。ロボットが勝手に動いて、発電所に向かった。純真の知る真実はただそれだけであり、そこに彼の意思が介在する余地は無かったのだから。
ロボットは警察に押収されて、危険なプログラムが仕込まれていないか、検査される事に。特に重い犯罪をしたという訳ではないので、純真自身は家族の元に送り返された。
その頃には、もう日が暮れて暗くなっていた。
◇
発電所が襲撃されたために、夜の所沢市は真っ暗だった。国立家も当然、電気が止まっている。
純真の両親は「何事も無くて良かった」と彼の無事を喜んだが、兄の真慈は戻って来た弟を不審の目で見た。
「一体どういうつもりで発電所に行ったんだ?」
「違う、オレは何も……。ロボットが勝手に動いて」
「勝手に動く様なプログラムは入っていない」
ロボットの開発に関わっていた真慈は、当然プログラムに関しての知識も持っていた。彼が知る限り、純真の言う様なプログラムは組み込まれていない。
それでも純真には事実を訴える事しかできない。
「プログラムの事は知らないけど、本当なんだよ。信じてくれ、兄貴。学校を出て行くつもりは無かったんだ」
プログラムの誤作動があり得るのかと、真慈は改めて考える。脳波を読み取って動くのだから、思いもしない挙動をする事が無いとは言い切れない。
沈黙して思案する真慈に、純真は自分の予想を語る。
「兄貴も見たと思うけど、大きな丸い金属の塊が、たくさん空を飛んでたんだ。あれが何だったのかは分からないけど、ロボットが勝手に動いた事と関係があると思う」
「いや、それは関係無いだろう。可能性があるとしたら、プログラムの誤作動だ」
しかし、真慈は否定した。常識的に考えれば、プログラムと無関係な挙動はしないはずなのだ。
「脳波でロボットを動かすのは、危険なのかも知れないな」
純真は自分の考えを聞き入れてもらえず、内心では不満だったが、自分よりロボットの事に詳しい兄が言うなら、そうなんだろうと納得した。
◇
所沢市と周辺の都市は、一夜を停電したままの状態で過ごした。
何十万という市民が大迷惑を被ったにも関わらず、公式な発表では発電所の事故というだけで、その詳細は伏せられていた。
しかし、普通の停電でない事は明らかだった。停電だけでなく、何故か電波も停止しているのだ。衛星放送もラジオも携帯電話も繋がらない。
多くの市民は近い内に電気が戻ると考えていたが、それに反して翌日も停電は直っていなかった。停電の原因に関して、公式のアナウンスは一切無く、市民は次第に不満を募らせていく。
そんな中でも市民生活は変わらない。電力が制限された状況で、太陽光や水力で作られた僅かな電力を集め、何とか日常を継続しようとする。
国立家もまた同じく。両親は仕事に出かけ、真慈と純真は学校に行く。
純真は新所沢科学技術大学付属高校に遅刻せずに着いたが、クラスの半数はまだ登校していなかった。
公共交通機関が一部停止しているので、遠くから学校に通っている者の中には、間に合わない者が出る。それでも授業をしない訳にはいかないので、取り敢えず時間通りに授業は進められる。
そうして一時限目が終わっても、まだ四分の一は登校していない。
休憩時間、純真は友人たちと話をした。彼は神妙な面持ちで言う。
「なあ、これって十年前と似てないか?」
「えっ」
友人たちは虚を突かれ、怪訝な顔で純真を見詰める。
数秒の間を置いて、一人が否定した。
「いや、十年前はもっとヤバかったって。どこからでも空にデカい宇宙船が見えてたからな」
それに別の友人も同調する。
「そうそう、今回のはただの停電だろ? 宇宙人が攻めて来たのとは違うって」
もしやと思い、純真は問いかけた。
「皆、昨日のあれを見てないのか?」
「あれって?」
「空一面に変な球体が浮かんでて……」
「あぁ……でも、だったら国から何か言って来るんじゃねえの? 十年前はそうだったろ」
友人たちも謎の球体は見ていた様だったが、宇宙人だとは考えていない様子。純真は真剣に訴えた。
「オレは見たんだ。空の球体が全部、発電所に向かって行ったのを。停電したままなのは、多分それが関係してる」
「それ、マジかよ?」
「大マジだよ。政府は何か隠してるんじゃないのか」
「お、陰謀論か?」
「茶化すなって。政府じゃなくても電力会社に何か都合悪い事があったとか……。だって何も言わないのはおかしいだろ」
「まあまあ、オレたちが考えたってしょうがないべ」
友人に諭されて、純真は沈黙する。確かに、何か隠し事があったとして、自分たちに何かできる訳ではない。ただ事態が解決するのを待つだけだ。
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