空飛ぶ怪球体
純真、ロボットに乗る
時は進み、その日の放課後。国立純真は新所沢科学技術大学付属高校の隣に建てられた、新所沢科学技術大学のキャンパスに向かった。
大学には彼の五つ違いの兄である、
風聞ではあるが、宇宙人に支配された地球を救ったのは、一機の巨大ロボットだったという。政府は地球のために戦ったロボットがいるという噂を一切認めていないが、関東で巨大ロボット同士が戦っていたのは事実であり、宇宙人が予定より一か月早く地球を去った事、エネルギー資源を奪い尽くさなかった事から、真実味のある噂として語られている。
そしてどういう訳か、新所沢科学技術大学ロボット工学部は国内で唯一、国からの補助金で巨大人型ロボットの研究・開発を進めている。
名目上は「メガスケール作業用」だが、本当は宇宙人の再襲来を想定しているのではないかと、純真は思うのだ。
大学内の工場に入った純真は、未完成の巨大ロボットを見上げる。
機体はハンガーに吊り下げられ、更にフレームで固定されている。全高こそ十メートルに満たないが、人が乗り込んで動かせるという意味では、間違いなくSF的な巨大ロボット。
腱の伸縮で筋肉が動くのと同様に、ワイヤーの伸縮で機体を動かす。動力源はエルコンになる予定だが、今の所は大型バッテリーを使っている。
まだ骨格が剥き出しの状態だが、基本的なパーツの組立は完了しており、人型だという事が一目で分かる。直立しての全体的な動作は未確認だが、部分的な動作には問題がない状態だという。
ロボットを間近で見ようと、工場内のキャットウォークを歩く純真に、色黒で筋肉質の大柄な男性が話しかけてきた。
「よぅ、国立の弟!」
純真は大学のロボット工学部にとっては部外者だが、付属高校の生徒、それも兄が大学に在籍しているという事で、特別に見学を認められている。故にロボット工学部で巨大ロボットの研究をしている者たち――
「……純真です。兄貴は?」
純真は苦笑いで色黒の男性に答える。
彼は国立真慈の同級生、
「真慈ならプログラムの調整で、
「はい、そのつもりです。兄貴は複雑な気持ちらしいですけど」
「まあまあ、身内が近くにいるってのはな……。オレも妹がいるから、気持ちは分からなくもない」
「五十我さんもですか。そんなに嫌なもんなんですかね」
「嫌っていうか……。でも、本気でやるつもりなら何も言う事は無いさ。人の夢は止められないからな。オレ、今すっげぇ良いセリフ言っただろ?」
「自分で言うんですか」
純真と五十我縁友が談笑していると、研究の責任者である吉中教授が、向かい側のキャットウォークから純真を呼ぶ。
「おーい、純真くん! ちょっとロボットに乗って動かしてみないか?」
「良いんですか!?」
いきなりの提案に、純真は喜びと戸惑い半々で聞き返した。
吉中教授は頷いて答える。
「私たちは皆、設計段階からロボットの製作に関わっている。構造を熟知しているが故に、操作する時は無意識に加減してしまう。その点、詳しくない君なら私たちが想像もしない問題を見付け出してくれるかも知れない」
「はい」
どんな理由であれ、純真は受けるつもりだったので快諾した。まさか今日ロボットに乗れるとは思わなかった。嬉しい想定外だ。
純真はキャットウォークを伝って、ロボットの胸部に設置されているコックピットに乗り込む。コックピットと言っても、外部から丸見えでパイプ椅子の様な簡素な座席があるだけだ。
座席に座った純真に五十我がアドバイスする。
「ベルトを締めろ。足はフットレストに」
「はい」
「ヘルメットを被れ」
「何かヤバそうなコード付いてますけど」
五十我が差し出したヘルメットの表面からは、カラフルなコードが無数に伸びていた。その先は座席の裏にある、80サイズの金属の箱に繋がっている。
「脳波観測装置だ。この機体は脳波とマイコンによる姿勢制御で動かす」
「脳波……」
「ヘルメットにはイヤホンとマイクも付いている。そこから指示を聞いてくれ」
「はい」
「それじゃ、気を付けて慎重にな。もしもの時は、こっちで脳波を遮断して機体を止めるから」
五十我は機体から離れ、地上に合図を送る。
ヘルメットのヘッドセットから女性の声がする。
「こんにちは、純真くん。こちら
「はい」
佐瀬崎もまた五十我と同じく真慈の同級生で、純真とは顔見知りである。
純真は緊張して、彼女の指示を待った。
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