沈黙するエルコン
純真と友人たちは慌てて着席した。
のっそりと研究室に入った盤田教授は、特に何も気にする様子なく、ホワイトボードの前に立つ。
盤田教授は中肉中背の中年男性である。猫背気味で口元には無精髭を生やしており、いつも気怠そうだが、不真面目という訳ではない。性格的には真面目で勤勉だ。
「えー、おはよう。六人全員揃っているな。今日はエルコンを持って来た。研究兼授業用という事で、特別に貸出許可が下りた物だ。エルコンが一体どういう物なのか、現物を見て勉強しよう」
教授はそう言って、エルコンの前でハンドライトを取り出した。彼はもう片手で板書しながら説明する。
「エルコンは高効率のエネルギー変換機だ。弱い手持ちのライト程度の光でも電力に変換する。このライトの明るさは約50
盤田教授のハンドライトに照らされたエルコンは沈黙している。教授は得意そうな顔だが、本当に発電しているのかと生徒たちは怪しんだ。生徒たちの内心を見切っているかの様に、盤田教授は言う。
「発電効率が本当かどうか、少し実験してみよう。皆、エルコンの前に集まってくれ」
教授の指示通り、生徒たちはエルコンを囲む様に集まる。教授は電力計のプラグをエルコンの送電用のメス端子に接続した後、数秒して首を傾げた。
「あら、おかしいな? 完全にゼロという事は無いはずなんだが……。室内でも最低5ワットは……」
彼は顔に焦りの色を浮かべ、青ざめた。エルコンが壊れてしまったかも知れない。弁償するとなると一体いくらになるのか、生徒たちには想像もできない。金で済むだけなら良いが、物が物だけに責任問題に発展する事もあり得る。最悪、教授の身分が危うくなる事も……。
盤田教授はエルコンと電力計を何度も調べるが、結果は変わらない。電力計は反応しないままだ。
生徒たちは気まずい表情で、必死な盤田教授を見ていた。その中で国立純真だけは気が気でなかった。もしかしたら自分が壊したかも知れないと彼は思っていた。
彼は教授が来る前にエルコンをいじって、感電した様な痛みを受けた。それが故障の原因だとしたら……。
どうかバレない様にと彼は祈っていたが、しかし、教授の哀れな姿を見ているのにも限界があった。純真にも人並みの良心があるのだ。遂に彼は決心して、自らの罪を告白する。
「あの、盤田先生! もしかしたらオレのせいかも知れません……」
「……どういう事だ?」
純真の発言に、盤田教授は困惑した表情で問う。
「オレ、盤田先生が来る前に、それを構ってたんで……」
「何をした?」
「いえ、叩いたりとかはしてないんですけど、ちょっと触ってみたりしました」
「それだけか?」
「はい。あっ、あの、それで差込口の辺りを触った時に、ビリッと来て……」
「えっ……? 大丈夫だったか?」
「まあ、はい。今は何ともないです」
純真の話を聞いた盤田教授は、難しい顔になって考え込んだ。
「そんな事で壊れる様な物じゃないんだが……。感電したとなると、元から不良品だった可能性があるのかもなぁ」
重苦しい沈黙が場を支配する。
やがて盤田教授は諦めた様に首を横に振った。
「壊れた物はしょうがない。実験はできなくなってしまったが、授業を続けよう」
彼は純真を責めたりはしなかったが、純真の心には拭い切れない不安が残った。
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