新所沢科学技術大学付属高校にて

それは偶然に

 新所沢科学技術大学付属高校一年生、国立くにたち純真じゅんまは電子機械工学科に通う一般的な男子である。入学して二か月、特に変わった事もなく、彼は平々凡々な日々を過ごしていた。

 新所沢科学技術大学付属高校は、大学進学前提で七年かけて専門的な知識を身につける事を目指しており、高校一年から教授の下について先進的な研究に携わる。

 純真が選択した研究室の教授・盤田ばんだはエルコンの専門家。エルコンは日本復興の象徴であり、その研究ができる事を純真は誇りに思っていた。



「おはようございます、盤田先生」


 一時限目から専門の授業のために、盤田研究室を訪れた国立純真と彼の同級生の友人たちだったが、当の盤田教授は不在だった。純真は詳しい事情を知らないが、教授という身分は忙しいのか、月に数回の頻度でこういう事がある。

 いつもは大人しく先生が来るのを待つのだが、この日は研究室の中に、普段は目にしない一メートル立方の黒い箱が置かれていた。

 それに興味を持った純真は、近づいてまじまじと観察する。


「これって……もしかしてエルコンか?」


 彼は友人たちの反応を窺ったが、皆して呆れたような顔。


「構うな、構うな」

「止めとけよ。怒られても知らねーぞ」


 未知の物に対する知的好奇心と熱意が足りていないと、純真は友人たちの反応を心の中で嘆いた。


「何ビビってんだよ。ちょっと触ったくらいで壊れるわけねーだろ。そんな簡単に壊れるもんなんか、最初から欠陥品だよ、欠陥品」


 そう言いながら彼はエルコンと思しき黒い箱を、四方八方からまじまじと観察する。

 それは全面が金属板で隙間なく密封されていて、解体できそうにない。表面に触れてみると氷の様に冷たい。金属特有の冷たさにも思えるが、数秒間触れていても冷たいままで、次第に痛みまで感じ始める。

 不気味さを感じて、純真は手を離す。


「どうした?」


 友人たちは純真の表情の変化を読み取って尋ねたが、純真は気のせいだと決め付けてごまかした。


「いや……何でもない」


 彼は観察を続ける。

 箱の側面下方の窪みには、いくつかの直径の異なる円形の穴があり、その上にはラベルプリンターで作られた日本語のラベルが貼られている。


(プラグ差込口? 送電用と発電用があるのか)


 書かれている文字通り、側面下方の窪みにある穴は、接続端子プラグを差し込む穴だ。

 純真は人差し指がすっぽり入りそうな大きさの差込口の縁を指先で軽くなぞる。特に深い意味を持たない、不注意な行動だった。


「あっつっ!!」


 突然、彼の人差し指の先に針で刺された様な痛みが走り、腕全体が熱を帯びる。


「な、何だぁ!? うわっ」


 熱は腕を通じて、一瞬で純真の脊髄にまで到達した。体中がカッと熱くなる……が、それ以上は特に何も起こらず徐々に熱は収まる。


「国立、どうした?」


 心配する友人たちに対して、純真は訳が分からないという顔で、何度も瞬きをした。


「指先がビリッと来て、体が熱くなって……感電したっぽい?」


 友人たちは苦笑いを浮かべて口々に言う。


「だから言ったじゃねーかよ」

「まさか壊してないだろうな」


 その時、廊下から足音が聞こえた。それなりに体重がある男性のゆっくりとした足運びに、盤田教授が来たと全員が察する。

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