四 王位継承と縁談

 第四王子シバンは、まさに文武両道といった男で、武道で鍛えて固く引き締まった肉体と、魔力も持っているため魔法にも長けている。更に、他国へ留学していた経験もあるため博識でもあり、人柄も柔和で非の打ちどころがなかった。


 シーア軍務長官の目から見れば、王子の中でも一番優秀で国王にふさわしい人物だ。王位継承会議でもシーア軍務長官はシバンを推している。しかし、会議の流れからするとシバン王子が国王になれる可能性は低そうだった。なにより、シバン王子自身が国政に興味が無さそうであり、外国に行って見聞を広めたり、どこかの山などへ修行に出たりと自由過ぎる所が懸念されている。


「そういえば、モンスターゲートが開いたようですね」

 シバンが手拭いで額の汗を拭きながら言った。


「ええ、そうなんですよ。王子の耳にも入られましたか」

 シーア軍務長官は悲痛の面持ちで答えた。


「いえ。誰から聞いたというのではありません。西の方の空に、微かにですが暗い邪悪な光が見えたもので……。それに、モンスターゲートが開くと悪寒のようなものが体を走るので、もしかしたらと思ったんです」


「そうでしたか」

 まだモンスターゲートが開いた件は一部の人間しか知らないが、それを感覚だけで察知したのは見事と言わざるを得ない。シーア軍務長官はさすがは武芸と魔力に長けているシバン王子だと感心した。


「――ということは、シーアさんは王にモンスターゲートについて相談に行った所ですか?」

 シバン王子が訊いた。


「ええ、そうなんです。軍部への資金を追加して頂こうかと思いまして」


「なるほど。もしかして、今回現れたモンスターって厄介なタイプですか?」

 察しが良いなとシーア軍務長官は唸った。資金の追加を検討しているということは、つまり現状では対応が厳しいということだ。


「ええ、実は、亜種スライムのようでして……。現在の所、ポンジャ王国の被害はほぼないのですが、地続きのシャイナ王国の辺りでは既に大きな被害が出ている様子で、タリア王国も被害が拡大しているらしいです。また、カメリア王国やシアロ王国の一部でも亜種スライムが目撃されているとの情報です」


「ふむ。世界的に広がりつつあるようですね。今、ポンジャ王国は王位継承にカメリア王国の王女様との縁談の件まで絡んで揉めている所なのに、災難が重なりましたね」

 シバン王子は眉根を寄せた。


「ええ」

 シーア軍務長官は頷いた。

 現在、王位継承で一番問題なのはカメリア王国第四王女であるクリム姫だ。

 カメリア王国は勇者カメリアが創始した国であるため、他とは別格の地位にあり、帝国と呼ばれている。ポンジャ王国とは友好的な関係にあるが、カメリアの方が優位にあり、時には無茶な要望を突き付けてくることもあった。

 その一つがクリム姫との縁談話だ。クリム姫をポンジャ王国の王妃にするようにとのお達しがあったのだ。王位継承でさえ揉めるのに、縁談まで絡んでしまった。

 しかも、クリム姫が気に入ったのは、候補の中では劣勢だった王子だったのだ。

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