二 やる気のない王様
「しかしですね、諜報兵の話では、大量の亜種スライムが発生しており、それも全世界で広がっているようなのですが……」
シーア軍務長官は、額の冷や汗をハンカチで拭きながら言った。
ポンジャ十世ことベイア王は溜息を吐いた。
「スライム? スライムが大発生したところで何が大変なんだ?」
「いえ、ただのスライムではありません。亜種スライムですよ。まだ全容は判っていませんが、亜種スライムには特殊な性質があるのはご存知ですよね」
ポンジャ十世は舌打ちをする。
「知ってるよ。わしを舐めてるのか?」
「いえ、そのようなことは……」
シーア軍務長官は口ごもる。
「亜種スライムって言っても、これまでだってなんとかなってきただろう。ラージスライムとか、アシッドスライムとか、ボムスライムとか……」
ポンジャ十世がへらへらと笑った。
確かに、これまで様々な亜種スライムが発生したが、なんとかなっていたのは事実だ。しかし、亜種スライムの生態や能力を解明し、対策を打つまでに多くの死者を出したのを忘れてはならない。
「ですが王様、今回の亜種スライムは新種と思われます。討伐体勢を整えるために資金を軍部に出して頂きたいのですが……」
愛想笑いを浮かべながらシーア軍務長官が言った。
「えー、お金出すの? 今までの亜種スライム対策を流用すればいいんじゃないの?」
口を尖らせながらポンジャ十世は眉根を寄せた。
「諜報兵の話では、各国で死者が出ている様子……。今までの対策が有効でない可能性があります。俄かには信じがたいですが、触れただけで死んだという話もあります。なので、遠隔攻撃の出来る魔導武器および、魔導兵士の増員が必要かと思われます」
努めて冷静にシーア軍務長官が意見を述べる。
「うーむ。しかしなあ、現在も魔導兵士はいるし、魔導武器もあるだろう。増やす必要はあるのかね」
ポンジャ十世は渋い顔をする。王は資金を出すのに乗り気ではないらしい。シーア軍務長官の予想通りではあった。十年程、モンスターの出現は少なく平和を保っていたので、軍事費用は年々削減されていたのだ。
国民からの税金は十分に徴収しており、国の資金には余裕があるはずだった。だが、王は裏で国の資金を別の事に使っている節があるのだ。シーア軍務長官含む長官たちも薄々は勘付いているが、王に指摘することは出来ない。以前、王の不正を疑った者が死刑にされたことがあるからだ。
シーア軍務長官は顔に笑顔を貼り付けつつ、奥歯を噛んでいた。
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