第14話 「時間って、何?」

「ありあさあ、勉強の時間は、ちゃんと黙って座ってるって無理なのか?」


 ありあがちゃんと授業を受けているっぽく振舞えば、あんな風に言われることは減るはず。そう思って、あの事件の後で聞いてみた。無理だろうなと思いながら。

 あいつはきょとんとした顔で、言った。

「時間って、何?」

 と。

「え? いや、だからさ、毎日同じくらいの時間に起きて、決まった時間に食事して、夜も決まった時間に寝るだろ? 学校に行く時間も、授業の始まりや終わりの時間も、決まってるじゃん。サッカーの練習だって、何時から何時までやるって、決めてあるし?」


 だから、時間がわからないなんてありえない、と最初は思った。けど、話をするうちにだんだん時間の概念があいつにはほとんど無いことがわかってきた。


「朝はぁ、目が覚めたら起きる~し、夜はぁ、眠くなったら眠るんだぁ。お腹が空いたら食べて、何かやるときはぁ、もういいって思うまでやるんだぁ」

「でもさ、時間とともに成長するってあるじゃん? ほら、前に言ってたじゃん。芽が出て葉っぱが出て、蕾ができて花が咲いて、とかさ。雲だって、時間とともにどんどん変化して、一時も同じじゃないって。言ってたよな?」

「それはぁ、時間と関係あるのかなぁ?」

「え?」

「それって変化じゃないの? みんなぁ、ただ変化するだけじゃないのかな?」


 これだけ時間が経ったからどうなる、のではなく、ただ状態が変化してそうなるだけ。その時間というやつは、本当に存在するのかな、と、ありあは言った。最初は突拍子もない考えだと思ったけれど、でも、考えてみると確かにそうかも、と、思えてきた。1年経ったから背が3センチ伸びたんじゃない、3センチ背が伸びるという変化が1年の間に起きただけで、これは単なる測る目安。直接には、時間は関係していない。

 うーん、何だか、よくわからなくなってきた。授業の時間は勉強に集中するか、少なくとも他の子の邪魔をしないようにしよう、といった話をするつもりだったんだけど、これも霧散した。けど、これははっきりした。サッカーの練習である技がようやく身に着いたとき。それに10時間かかったとしても、それは、10時間練習したからできるようになったんじゃない。できるようになるという変化を起こすのに、たまたま10時間かかったんだ。誰かが同じことを1時間でできるようになっても、それは自分とは関係ないことだ。

 この考えは気に入った。それ以降、こんなに練習しているのになぜできない、と苛立つことはなくなった。変化に必要な練習がまだ足りないと、思うようになったから。

 こういうところ、ありあは本当にすごい。敵わないと思う。

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