第8話 1年生 生活
登校初日、葉月はなぜか上機嫌で、また一緒ね、ちゃんと整列しなさい、とか、もう小学生なんだから言葉遣いも気を付けるのよ、とか、相変わらずのお姉ちゃんぶりでそんなことを言いながら隣に並んだ。背はやっぱり5センチ高くて、なんか面白くない。…隣があいつならよかった。背が同じくらいだから(平均より5センチ低いんだって)、うざい自慢をされなくて済む。
「はい、2人ずつで列になってね。そのうち合流するけど、今1年はあなたたちだけなんだから、2人で手をつないでね」
上級生に言われ、葉月と渋々手をつなぐ。集団登校の列は、リーダー役の6年生と担当の先生が先頭に立ち、その後に1年生2人、2年生3人、3年生1人。列の最後尾にサブリーダーの別の上級生と先生が付いて、最初は10人でぞろぞろ歩き出した。学校を中心に各方向から同じような行列が所々で合流し徐々に大きくなりながら、やってくる。それ以外にも、家が近い子は歩きで、遠い子はスクールバスや家族の送迎で登校する。あいつは、どうやって来るのかな?
まあともかく、登校のしかたはいろいろだけど、1学年1クラスしかないから、同い年なら全員同級生、つまり、教室では一緒のはず。だから初めて教室に入ったとき真っ先にあいつの姿を探したけれど、なぜか、どこにも見当たらなかった。
理由は、その日の午後にわかった。サッカーチームの正式メンバーになる手続きを終えてグラウンドに出たら、あいつがあの藪のほうへと歩いていくのが見えた。追いかけて、どこにいたのかと聞いたら、どんぐり学級だよ、と答えた。どんぐりって何? と思っていたら、チームの上級生(といっても2年生だけど)が、へえ、特別学級かあ、と、馬鹿にした口調で言ったんだ。
「特別学級?」
「そう、どんぐり学級は、特別学級。学習しょーがいがある奴のクラス!」
「しょーがいって、何?」
「へえ、チビはしょーがいも知らないの!? しょーがいはしょーがい! どんぐり学級は、普通じゃない、ダメ学級ってこと!」
そのまま、どんぐり学級ダメ学級、と嘲るように連呼し笑いながら、走り去って行った。なんとなく腹が立ったけど、だけど当のあいつが涼しい顔をしているからそれ以上怒り続けることもできず、もやもやした気持ちが残った。
***
「ねえ、しょーがいって、何?」
家に帰って母さんに言うと、えっ!? と驚いた顔をされた。
「なんでそんなこと聞くの?」
「上級生が、どんぐりはしょーがいがある奴のダメクラスって言ったから。なんのことかなって。しょーがいって何? しょーがいがあるのは、ダメなことなの?」
そう言うと、そう、上級生がそんなことを、と呟いて、母さんは考え込むような顔で黙り込んでしまった。何か、悪いことを聞いたんだろうか。
そのときは返事は得られなかったけれど、それからしばらくして、母さんはどんぐり学級のお友だちはお勉強に手助けがたくさん要るんだと教えてくれた。普通のクラスだと先生は1人で20人を教えるから、1人の生徒の手助けをしていられない。だから、より多くの手助けができる体制を整えたクラスを別に用意している、と。手助けって、どんな? そう聞いたけれど、それはわからない、1人1人状況が違うから、と言われてしまった。
今度会ったら、あいつに聞いてみよう。
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