第5話 出会い の続き
翌日、なんとなく気になって、またあの藪の中の池のところに行ってみた。あの変なやつはいなかった。水の中の卵はそのままで、辺りはしんとしていて、時おりグラウンドから聞こえる声が、よけいにその静けさを深めているように思われた。
「ま、毎日こんなとこにいるわけないか」
そう独りごちながらグラウンドのほうへと足を向け直したとき、いつの間にか、何の気配もないまますぐそばに立っていた誰かと鉢合わせしそうになり、どきりとして飛び上がった。
「びっくりしたぁ? びっくりしたねぇ? ごめんねぇ」
そんなこっちの反応を見て、宥めるように、歌うようにそう言ったのは、昨日のあいつだった。みっともなく驚いたことが気まずくて、わざと何事もなかったかのように尋ねてみた。
「なんだ、いたのか。何してたんだ?」
「雲を見てた、ずっと見てた」
「クモ? カエルの次はクモ?」
「虫のぉクモはかわいいねぇ、でも見てたのはぁ、空の雲。同じクモって名前はなんで? 虫のクモは空の雲から来るのかな?」
「いや、違うと思うけど」
「じゃあどこから来るの?」
「さあ」
「知らないの? じゃ、ほんとに雲から来るかもねぇ。雲からクモが~」
言うなり開いたノート? スケッチブック? に何かを描き始めた。何だろう? 覗き込むと、銀色の縁の雲から降りてくる灰色のクモ。
まるで魔法のようだった。あっという間に、たくさんの色が次々と白い紙の上に重ねられていく。無造作なようでいて、いや、むしろそれだからこそか、惹きつけられる風景が紙の上に生まれた。
「すごいな、お前!」
そう声をかけたけれど、もう夢中になって猛スピードで何枚も描きなぐり続けるあいつには、どうやら届いてないみたいだった。何かに集中し出すと、他のことが意識に上らなくなるらしい。変わってる、と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます