第5話

 おじさんと話し終えた後も、恵美たちは買い物のために里を練り歩いた。

 しかし、恵美と妖子がそれぞれ腕に抱きついていて離れようともしない。

 2人が離れない理由も分かる。真理は恵美に対する好意から。妖子は、人間に対する恐怖心からだろう。

「(まったく、今はそんなことないって言ってるのに)」

 そう、今は【そんなことは起こらない】。

 今は妖魔にもこちらの味方が沢山いる。しかも比較的強い妖魔だ。

 彼女たちが他の妖魔を抑えているおかげで、妖魔が襲ってくることはない。

 だから、【里が襲われることはない】。たまに襲ってくることもあるけれど、その場合の対策もある。

 それは【里にも妖魔がいる】ということ。里にいるのは大体がこの里を大好きな妖魔だ。

 だから里も守るし、里の人間も守っている。

 真理は恵美に腕を放してもらうように言い、恵美は渋々といった感じで腕から離れたてくれる。

 そして離してもらったほうの手で妖子の頭をなでる。

 妖子はしなだれた犬のように静かで、真理のされるがままになっていた。

「おーい、そっちにボールいったぞ!」

「は~い」

「あら?」

 そこにいたのは、ボールで遊んでいる子供達。何人かの子供が集まって輪を作り、楽しそうにボールで遊んでいた。

 1人はボールを投げ、もう1人がボールを取り、投げ返す。

 子供たちがしているのは、その行動を繰り返しているだけの遊びだった。子供たちはすごく楽しそうで、真理たちはその光景をほのぼのと眺めていた。

「……平和ねぇ」

「そうですね~」

「……ぁ」

「妖子?」

 真理と恵美は静かに子供たちの遊びを見ていたが、妖子は何か思うことがあるようで、その光景を見たまま固まっていた。

 真理が目の前で手を振っても肩をゆすっても反応は無い。

 と思った次の瞬間、妖子の瞳から小さく半透明な雫が落ちる。

 それは、涙だった。

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とある郷の物語 ソラ @syuuma_mirr

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