第4話

 昼食を取り終えた3人は縁側でお茶を飲みながら休憩していた。

 そこで真理は、何かを思い出したように「ぁ……」と呟く。

「どうしたんですか?」

「もう神社に食料がないのよ……」

 その一言で何かを思いついたように恵美が縁側から降り、真理の前に立つ。

 そして満面の笑みを浮かべつつ、真理の手を取った。

「……なによ?」

 なんだかいやな予感がしたが、もう遅い。逃げようと思っても、恵美が手を強く握り忌めているので不可能だった。

 真理は、諦めたようにため息をつく。そして、恵美の台詞を待った。

 恵美の方は言うことが決まっていたのか、満面の笑みを崩すことなく言ってきた。

「真理さん、それではデートに行きましょう!」

「……」

 ある意味、予想通りの台詞が飛んできて、真理はため息をはいた。

 そこで隣にいる妖子を見る。妖子は不思議そうに首をかしげていた。真理は「ちょうどいいわね」とつぶやき、恵美のほうを振り向くと。

「いいわ、デート、してあげようじゃない」

「え?いいんですか?やった~、真理さんとデート~!」

「ただし!」

「はい?」

「妖子も一緒にね」

「……ぇ?」

◆◆◆

 妖子は【里へ行く】ことには賛成したものの、あまり乗り気ではないようだった。

 それもそうだろう、過去にあんな事があったのだから。

 でも、"今"の里で、そんな事は絶対起こる事はない。

 今の里では人間も、妖魔も、"共に、毎日を過ごしている"からだ。

 人間は妖魔と、妖魔は人間と、お互いに協力し合い、楽しそうに毎日を過ごしている。

 でも、一度負った心の傷は、そんな言葉では拭えない。だから、行くことに少し抵抗もあるのだろう。

◆◆◆

 結局、断る事ができず、3人で里に向かう事になった。

 そうしてつれてこられた人里は、いつものように、人でにぎわっていた。でも、ところどころで人ではないものがちらほらと存在している。

 人間と妖魔が里に住んでいる。そしてお互いが、お互いを認め、友として、同じ時を過ごしている。

 これが、昔と今の違いだ。

「ほら妖子、見てみなさい」

「……うん」

 真理に言われ、妖子が目を開ける

 この光景を見れば、妖子も元気を出すだろう。そう、思っての事だ。だが……

「……人、多いね」

「……はぁ」

 どうやら分かってはいないようで、その回答は、やはり見当違いな物だった。

 【仕方ない】そう思い、少々強引だが、妖子を手を掴み、里に入る。

 恵美も、その後についてくる。

「おっ、こんにちは、真理ちゃん、恵美ちゃん」

「こんにちは、おじさん」

「……っ!?」

 里に踏み入った所で、里の住人が挨拶してきた。その言葉に反応したのか、妖子が真理の背中に隠れてしまう。

「おや、そこの子は誰だい?見ない顔だけど」

「……っ!?」

 妖子が真理の手をさっきよりも強く握った。

 やはり、まだ人間が怖いのだろう。

 だが、やはり克服させるには"慣らす"しかないわけで……。

「妖子、妖魔よ」

「……っ!」

 その名を、妖魔である事もともに告げた。

 妖子はさらに手を握る力を強めた。正直、痛い。

 しかし、妖子の"心の痛み"を和らげるには、これしかないのだ。

 そして、やはりおじさんの反応は、予想した通りの物だった。

「妖子ちゃんか、よろしくな」

「……っ」

 【よろしく】それは、歓迎の言葉、それはもう、もらえないと思えていた言葉。

 でもそれは、真理や恵美と一緒だからもらえた言葉。そう、妖子は思っていた。

 おじさんにその気は無いが、妖子は、そう、思ってしまった。

「……はぁ、どうしたものかしら」

 どうやら、妖子の心の傷を癒すには、もう少し時間がかかるようだ。真理は、そう思った。

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