第21話 ヴァルゴの世話を引き受ける兄と私

「成程、確かにそれが良いかもしれん」

 アースさんに云ったのと同様の事を領主に話すと、彼はそう云った。この人に会う前は盗賊を何とも出来ない無能な領主だと思っていたが、手段さえあればこの領主は腕を振るえる、理解も早い。そう云う印象に変わっていた。

「だが、ただ子供を三人も置いておく訳にはいかん。ヴァルゴは一次的に私預かりになり、面倒を看る事は私の義務になるが、お前らは別だ」

 痛い所を突かれた。

 私兵として雇われ続けるとしたら、訓練だのでヴァルゴの世話を看るどころでは無くなってしまう。だが、慈善家じゃないのだから、ただ飯ぐらいを更に二人抱え込む訳にもいかないのだろう。

「では、私と兄をヴァルゴの世話役として雇ってください」

 そう云うと、領主が片眉を上げて私を見た。

「お前らは雇われるに値する働きが出来るのか」

「します」

 私が即答すると、領主は少々面食らった様子を見せた。それから、声を立てて笑った。

「そうか、分かった。お前達と改めて契約を結ぼう。……その前にあれだな、裁判所と孤児院にこの話をして了承を貰わねば」

 お前達も来い、と云われて、私と兄はアースさんと別れ、領主と共に裁判所へ向かう事になった。

 裁判所では判事達と孤児院の院長が待っていた。午後からまた話し合いをする予定だったのだそうだ。ヴァルゴは一先ず檻の中に居ると云う。早く出してあげたいと思った。

 私はアースさんと領主に話した内容をまた判事達と院長にした。判事も院長も、私達の村を焼き人々を焼いた少年を許すのかと、問うてきた。

「分かりません……でも、私はヴァルゴを檻から出してあげたいと思っています。それに、村の襲撃は彼の自由意思でなされた事ではありません。まだ未成年の彼に責任を問うのは酷だと思います」

「シリウス君はどう思っているんだね」

 院長が兄に優しい声で問う。

「俺は……なるべくスフィアの意に沿う様にしたいと、」

「シリウス君、儂は君がどう思っているかを知りたいのだよ」

 院長が兄の発言を遮って云うと、兄は困った様に視線を彷徨わせ、俯き、ぐっと一度唇を噛むと顔を上げて再び口を開いた。

「俺は到底許せません。けど、そうするしか生きる方法が無かったのだとすれば、それは不幸な事です。不幸は幸福によって打ち消されるべきです。故郷と友と家族を失った俺達が、孤児院で、領主様の元で生活させて頂いた様に」

 ふむ、と院長が頷く。それから判事達を見遣ると、

「どうでしょう、ヴァルゴ君を二人に預けては」

 判事達は顔を見合わた。そして少し言葉を交わすと、頷き合ってからこちらを見た。

「では、ヴァルゴ君にこの話をして、彼にどうしたいか訊いてみましょう」

 判事は職員の一人にヴァルゴを連れて来る様に命じた。私達が出向くのでは、他の檻に入っている者達を刺激してしまうからとの事だった。

 少し待っていると、服を与えてもらい風呂にも入れてもらったらしく、身綺麗になったヴァルゴが職員に連れられてやって来た。そして私達に気付くと深々と頭を下げた。

 私と兄が吃驚して戸惑っていると、判事の一人が

「君達の村を焼いてしまった事を詫びているのだと思いますよ」

 と教えてくれた。

「ヴァルゴ、顔を上げて。今日はね、ヴァルゴの今後の話をしに来たんだよ」

 云うと、彼は怖ず怖ずと顔を上げた。

「私達と一緒に領主様の元で暫く暮らして、ギフトの事だとか、一般常識だとかを勉強して、それから成人するまでを私達と孤児院で過ごすの。どうかな」

 今度はヴァルゴが戸惑った様子を見せた。

「嫌かな」

 首を傾げると、ふるふると遠慮がちにヴァルゴが首を横に振る。

「じゃあ、一緒に来てくれる?」

 目線を合わせて問いかける。ヴァルゴは、困った様子で私と兄を見、領主と院長、そして判事達を順番に見た。

「ヴァルゴ君、君は自分が犯した罪の重さを知っているんだね」

 院長の言葉にヴァルゴが頷く。

「だから二人と一緒に居てはいけないと思っている」

 今度は領主が云い、またヴァルゴが頷いた。

「ヴァルゴ、俺はお前が許せない。でも、お前がちゃんと生きられる様になったら許せるかもしれない。俺に、お前を許すチャンスをくれないか」

 兄がヴァルゴの目を見て云う。とうとうヴァルゴは、こっくりと頷いた。

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