第16話 盗賊に潜入した二人から話を聞く私

「燻し出すのは諦めた方が良さそうですね」

 暫く四人で唸っていたが妙案は出なかったので、パイシーズさんが溜息交じりに云った。

「炎使いのギフテッドが盗賊を裏切ってくれたらなあ」

 そしたら盗賊を捕まえるのも簡単になるのに。

「そりゃあ、案外良いアイディアかもしれねえぞ」

 アースさんが食い付いた。え? でも、どうやって?

「実は一ヶ月前から部隊の人間を二人、盗賊に潜入させている。今日が報告の日だから、その際に炎使いを仲間に引き入れる様に云ってみる」

 そんな事をしていたのか。私も兄も初耳なので驚いた顔でアースさんを見る。

「呑気な事を……」

 パイシーズさんがまた溜息を吐いた。

「失敗したら彼らに危険が及ぶんですよ」

「分かってる。だから今日の報告まで一切あいつらと隊は接触してないだろ」

「あの、報告の席に同席させて頂けませんか」

 私が云うと、アースさんとパイシーズさんが驚いた顔をして私を見た。

「又聞きするより直接聞いた方が早いし良いと思うんです。報告を聞いて訊きたい事が出て来るかもしれませんし」

「スフィアは頭の回転が速いです。作戦立案の為にもそうした方が良いと思います」

 兄は、私と一緒にお願いします、と頭を下げてくれた。

「……報告は夜中だ。起きてられるか?」

「が、頑張ります」

 その日の夜更けに町の外で報告を受ける為、訓練は夕方に切り上げて私と兄は仮眠をとる様に命令された。

 そして時間が来た。人数は少ない方が良いと云う事で、作戦立案に携わるアースさんとパイシーズさん、そして私達兄妹だけが盗賊に潜入した二人と会う。

 場所は森の中だ。人目を避けるなら当然の選択だと思う。私達は彼らが来るずっと前に森に入り、待ち合わせ場所で暫く待った。同じ時間に待ち合わせ場所に行くのはリスキーだからだ。会いますと云っている様なものである。

 夜の森は夜盗から逃げて以来なので、緊張が酷くて思わず兄の手を握った。

 がさり、音がする。振り返ると、見知らぬ男が二人居た。彼らがそうだろうか。

「隊長、お久しぶりです」

「どうして子供が?」

 一人は銀の短髪に浅黒い肌をしていた。アースさんと違って日焼けでは無く地黒と云う感じだ。歳はアースさんと同じくらいだろうか。

 もう一人は私と兄を訝しむ様に見ていた。赤い長髪を首の後ろで結っており頬にはそばかすが散っている。こちらは若い。

「シリウスとスフィアだ。スフィアは氷を扱うギフテッドで、二人は兄妹なんだ。盗賊の討伐に手を貸してくれる」

 アースさんが簡潔に説明すると二人は驚いた顔でまじまじと私を見た。兄と揃って頭を下げる。

「俺はケレスだ」

「オイラはトーラス。宜しくな」

 銀髪がケレスさん、赤髪がトーラスさん。スフィア覚えた。

「それではお二方、報告をお願いします」

 パイシーズさんの言葉に、場の空気が引き締まる。二人は顔を見合わせ頷き合うと、ケレスさんが主に報告をし、時々トーラスさんが補足をした。

 簡単に纏めると、盗賊は金や物資のある間は適当な村や、町の後ろ暗い人達と遣り取りをしていたが、私の村を襲ってから領主により警備が強化され、中々難しくなって苛々している、物資も不足してきていてそろそろどこかを襲う算段を立てているとの事だった。

 問題のギフテッドはまだ私や兄と同じ年頃の男児だと云う。喋れないのか喋らないのかいつも無言で、盗賊の仲間とも殆ど交流が無く、辛うじて頭領の云う事を聞いている、と云う感じだった。

 子供達は既に全員売られたがその取引先は分かっていて、ギフテッドの少年はその子供達に少し同情的な様子を見せていたらしい。小さな子供に自分の分の菓子をやったりしていたそうだ。

「悪い子じゃなさそうなのに……どうして盗賊なんか」

「恐らく生きる為でしょう。つまり、衣食住を保証すれば寝返ってくれる可能性が高い」

「オイラもそう思うね。他の連中はマジでクズだけど、あのギフテッドは助けられると思う」

 パイシーズさんにトーラスさんが賛成する。

「だが、コミュニケーションが取れるかどうか」

 うーん、みんなで唸るのだった。

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