第15話 今更ながら文化の違いを痛感した私
「生き延びた村人によると炎使いらしいからな。スフィアの氷とは相性が悪い」
アースさんが腕を組んでうーんと唸る。
「炎使いって云いますけど、それって多分、本当に『使うだけ』なんだと思います」
私達は作戦の立案をしていた。アースさん、私、兄シリウス、そして参謀であるパイシーズさんの四人だ。
発言した私を三人が見る。
「私だって、何も無い所から氷を取り出している訳じゃありません。空気中の水分を氷にして固めたり、冷やしているだけです。多分ギフトは、無から有を生み出せる程万能じゃない」
「その、空気中の水分ってのが良く分からねえんだよな。目に見えない水が、ここにもあるって事か?」
アースさんが腕を組んだまま、またうーんと唸る。
そうか、この世界にはまだそう云う知識が無いのか。私はちょっと困ってしまった。
「夏になるとじめじめとして、冬になると乾燥するでしょう。それは空気中の水分量が増えたり減ったりするからなんです」
「どうしてそんな事を知っているんです」
パイシーズさんが訝しむ様に私を見る。益々困ってしまった。
「ええと……こんな力ですから、何となく……?」
えへへ、と笑って誤魔化そうと試みる。
「しかし、それなら手はある。火を使わせなきゃ良い。まず襲撃は昼間だな」
松明や蝋燭の火を使われては困るからだ。
「ですが、それでは誘き出す方法がありません。当初は巣穴の前で生の木や葉を燃やして出る煙で燻し出す予定でした。その手が使えなくなります」
パイシーズさんに指摘され、うーんとまたアースさんが唸る。
「それに、火を使うだけ、と云うのはスフィアさんの予想でしかありません。そんな不確かな事を理由に作戦を立てるのは如何なものかと」
うっ、痛い所を突かれた。そうなのだ、予想でしかないのだ。確実性に欠ける。
けれど、無から有を生み出すなんて錬金術でだって出来ない事だ。それがギフトなら出来ると云うのは、私には考え難かった。
「そんな事云っていたら何も出来ないじゃないですか。ギフトのスフィアが云っているんだ、信じてくれたって良いじゃないですか」
兄が云うと、パイシーズさんは少したじろぎながらいやでも……ともごもご云う。
何となくだが、パイシーズさんは子供が苦手な様子だった。
「シリウスの云う事も一理あるな。……最悪、スフィアが氷塊をぶつけちまえば良いだろう。どれだけ火を扱えようと、拳大の氷の塊を一瞬で溶かすなんて無理だろうしな」
「隊長がそう云うのであれば……」
「じゃあ、あとは敵を燻し出す方法ですね」
どうやら私の予想を元に作戦を立てる方向で決まりの様だ。あとは煙だが……。
「ドライアイスがあればな……」
ぽつり、呟いた。あれで発生させる白煙は引火性も無いし、高濃度に長時間晒されなければ危険はほぼ無い筈だ。けれどあれは確か千八百年代に発見されたものだ。この世界にあるとは思えない。ちなみに吸入麻酔も同時期だった筈。
「ドライアイスってのは何です」
げっ、パイシーズさん耳聡い。私はまた困ってしまった。
「ええと……空気を凍らせた物……ですかね」
多分二酸化炭素を液体化して凍らせた物、と云っても分からないだろう。私はなるべく伝わるだろう言葉を選んだ。
「空気をどうやって凍らせるんだ」
圧力をかけて液体化し凍らせます、とは云っても分からないだろうか。まあ液体化と云っても確か粉末状になるのだけど。こんな事云ったら益々混乱させるだろうなあ。二酸化炭素消火器が沢山あれば家庭でもドライアイスを作れた筈だが、それも確か千八百年代に発明された物なのでこの世界には多分無いだろう。少なくとも私は見た事が無い。
「……分かりかねます」
みんなが溜息を吐いた。ああ、ここが現代日本だったら!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます